第十六章 トンの町 3.ナントの道具屋
ギルドに向かう二人と別れたが、まだ現地時間で二時を少し過ぎたところだ。このまま引き上げるのは勿体ない。シルのレベリングをしたいところなんだけど……
「ここのモンスター程度じゃ、お前のレベリングにはなりそうもないよね?」
懐から顔を出したシルに話しかけると、当然という顔をしていた。ギャンビットグリズリーは無理としても、最低でもスラストボアくらいじゃないと、シルも僕もレベリングにならないみたいだ。だったら……素材の回収しかないよね。ただ、問題は……
「もうそろそろ四つ目のアイテムバッグも一杯になるなぁ……」
【解体】と【落とし物】が頑張ってくれたお蔭で、プレーリーウルフの毛皮や魔石を始めとするドロップ品が凄い事になっている。アイテムバッグ一つには同種のアイテムは十個しか入らないので、メイとニアは入りきれない毛皮を抱えて……というか従魔に運ばせていた。多分、それもあってギルドへ急いだんだろうな。
僕はPKから頂戴したアイテムバッグがあるので何とか入っているが、そろそろ四つ目も危なくなってきている。それ以前に、狩りをしようにも近くのモンスターはとっくに逃げ去って、【虫の知らせ】【気配察知】【嗅覚強化】のどれにも反応がない。三つともスキルレベルは上がってるっていうのに……。
仕方がない。町に戻って、ナントさんの店で毛皮を買い取ってもらえるか相談しよう。
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「これはまた、大量に狩ってきたね~……」
僕が取り出した素材の山を見ての、ナントさんの第一声だ。
「……多過ぎますか?」
「いや、大丈夫、買い取れるよ。……あぁ、そうか。さっきギルドに女の子が大量の毛皮を持ち込んだって噂になってたけど……シュウイ君のパーティかい?」
「臨時で。彼女たちの狩りのお手伝いをしたんですよ」
「なるほど……ケインからウィスパーチャットで聞いていたけど、実際に見るとやはり驚くねぇ……」
そう言いながらも、ナントさんは毛皮などの素材を全て買い取ってくれた。
「いや、プレーリーウルフの胆石なんて、初めてお目にかかったよ。十数年に一回出るか出ないかって聞いていたけど……それが四個もね……」
「何に使うんですか、コレ」
「薬剤師が調薬に使うんだよ。尤も、それなりのスキルレベルが必要になるけどね」
「心臓なんてアイテムもあるんですね……」
「要するに丈夫な筋肉の袋だからね。用途は色々と多いんだけど、供給量が少なくて高騰してるんだよ」
他にも色々と珍素材がドロップしていた。うん、サナダムシなんてドロップ品は初めて見たよ……。ナントさんも吃驚してた。
「魔石はどうするんだい?」
「……何かに使えるんですか?」
「確か、従魔に与える事ができた筈だよ」
「! ……餌代わりに、ですか?」
「うん。それにこれだけの量が纏まってると、焦って売らなくても、色々と使い途はあるんじゃないかな。買い取りはいつでもどこでもやってくれるし」
ナントさんのアドバイスに従って、魔石は売らずにとっておく。ナントさん曰く、対人関係を円滑にする道具としても使えるそうだしね。クロスボウのボルトが減っていたので、追加で購入しておく。
「そういえば、ボーラは上手く使えたのかい?」
「あ、結構役に立ちましたよ。これですけど」
試作品を取り出すとナントさんはまじまじと見ていたが、やがてこう切り出した。
「シュウイ君、君さえ構わなければ、これ、うちで売り出しても良いかな?」
「僕は構いませんけど……売れますか?」
「公式には設定されていない武器かもしれないけど、要は投げるだけだろう? 【投擲】スキルがあれば難しくはないと思うし……いや、その前に試させてもらって良いかな?」
一旦店を閉めて裏手に行く。広々とまでは言えないけど、手裏剣やクロスボウの試し撃ちくらいならできそうなスペースがあった。的代わりの杭に向けてナントさんがボーラを投げると、何の問題もなく絡み付いた。
「いや、これは案外使えそうだね」
「実際使えました。逃げるのを転ばせておけば仕留めるのも楽でしたし。……でも、これくらい誰にでも作れませんか?」
「手先が器用な人ばかりじゃないからね。いずれは他の店でも売り出すかも知れないけど、それまでの間に稼がせてもらうよ」
僕は考えもしなかったけど、ナントさんに言わせると、スキルを必要としない武器というのはプレイヤーにとって福音らしい。スキルスロットの数も決まっているし、それはあるかもね。
「それにこれなら生け捕りも可能だ。新たな需要を掘り起こす事になるかもしれないよ?」
ナントさんは凄い鼻息だけど、そう上手くいくんだろうか? アイデア料として銀貨十枚を提示されたけど、謹んで辞退した。その代わりに、有益な情報があったら優先的に回してくれるようお願いした。僕にとってはそっちの方が重要だ。
見本を作ってくれと頼まれたので、試作品に若干の修正――錘の重さと縄の長さ――を施したものをいくつか作って渡した。ナントさんは冒険者ギルドにも持ち込むつもりだと言っていた。特許がどうとか呟いてもいたようだけど、聞かなかった事にする。僕としては目立ちたくないしね。
精算を済ませてナントさんの店を出る。宿に向かう途中で市場によって、シルのご飯を物色していく。身体は小さいのに、果物を凄い勢いで食べるもんだから、もう底を突きかけてるんだよ。あと、生肉への食い付きが悪かったので、塩分の少ない美味しい肉も探さないと……卵とかかな?
・・・・・・・・
宿へ引き上げて、少し早いが夕飯にする。僕の食事が終わると、今度はシルのご飯だ。果物の他に新鮮な葉物野菜を差し出すと、どちらも喜んで食べた。凄い食べっぷりだけど、成長期なんだろうね、うん。……卵の中で何も食べる物が無くて飢えていたなんて哀しいオチじゃないよね。
市場で買った卵を茹でてもらったものを刻んで出してみると、これも喜んで食べた。僕も一つお相伴してみよう。……うん、美味しい。けど、やっぱり塩が欲しくなるね。市場で買った塩をかけて食べていると……シルがじっとこっちを見ている。まさか……。
「お前も塩が欲しいの?」
そう訊くと、シルははっきりと頷いた。どうしよう……。生き物にミネラルは必須だって言うし……少しくらいならいいのかな。シルの茹で卵に少しだけ塩を振りかけてやると、以前にも増して喜んで食べる。……運営に問い合わせておいた方が良いかな。メイとニアにも従魔の食事について訊いてみよう。
食後にプレーリーウルフの魔石――小さいの――を出してやると、当たり前のような顔をしてこれも食べた。一つ食べると満腹したように引き下がったので、水を少し飲ませてやると、うぅんと伸びをした後で手足を引っ込めて眠りについた。……運動不足にならないように注意しなきゃ。
ログアウトの前にスキルをチェックしておこう。最近はレアスキルをただ拾う事も減ってきたけど……あ、杖術スキルの【突き】と【払い】が進化したのか、【杖術(物理) 皆伝】っていうアーツを得てる。……けど、(物理)って何?
……あぁ、そう言えば匠が言ってたっけ。パーソナルスキルをゲーム内の身体の動きに反映させる事はできるけど、それだけだとゲーム内の戦闘スキルを超えられないって……剣に魔力を纏わせて攻撃したり、気を飛ばしたりはできないって事だよね。……だから(物理)なのかぁ……。だとすると熊さん相手が限界かなぁ……。
……何か疲れたので、少し早いけど僕もログアウトしよう。
お休みなさい。
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《シュウイのスキル/アーツ一覧》
レベル:種族レベル4+
スキル:【しゃっくり Lv1】【地味 Lv3】【迷子 Lv0】【腹話術 Lv2+】【解体 Lv6】【落とし物 Lv7】【べとべとさん Lv2】【虫の知らせ Lv3】【嗅覚強化 Lv2】【気配察知 Lv2】【土転び Lv1】【お座り Lv0】【掏摸 Lv0】【イカサマ破り Lv0】【反復横跳び Lv0】【日曜大工 Lv1】【通臂 Lv1】【腋臭 Lv1】【デュエット Lv5】【般若心経 LvMax】【弓術(基礎) Lv1】【狙撃(基礎) Lv1】【投擲 Lv1】
アーツ:【従魔術(仮免許)】【召喚術(仮免許)】【杖術(物理) 皆伝】
ユニークスキル:【スキルコレクター Lv4+】
称号:『神に見込まれし者』
従魔:シル(従魔術)




