第百八章 トンの町 10.東のフィールド~【ファイアーランス】と【打撃力上昇】~
「……う~ん……なぜか人間版とオーク版の両方が発動してるよね、【ファイアーランス】。……人間版の方は間違い無く単発だったけど……オーク版の方は違うのかな?」
〝論より証拠〟とばかりに、シュウイはこれまで顧みる事の無かった不憫な【ファイアーランス(オーク)】の試射に踏み切った。その結果……
「……こっちは三点バーストがデフォなのかぁ……だったら計算は合うよね」
ものは試しと発動した【ファイアーランス(オーク)】では、何度試しても一回の発動で三発のランスが飛んで行く。どうやらオーク版の【ファイアーランス】は、三点バースト射撃がデフォルトらしい。なぜかヘルプファイルが見当たらず――プレイヤーが取得するなど想定していなかったせいらしい――当惑したが、あれこれ試してみた結果、一度の発動で発射する弾数は一~三発のどれかを選べるようだ。
これは意外に使い勝手が良さそうだ――と、密かに北叟笑むシュウイ。知らなかったとは言え、今までこれを使わなかったとは、何とも勿体無い事をしたものだ。
残る問題は、なぜ一回の詠唱で二つの魔法が起動したのかなのだが……こればっかりは皆目見当が付かない。恐らく何かのバグなのだろうとは思うが。
「多分だけど……オーク用の【火魔法】を、プレイヤーが取得する事なんか、想定してなかったのかもしれないな……」
自分のスキル【スキルコレクター】が色々と規格外で想定外な事――シュウイの見解では、規格外で想定外なのは飽くまでスキルの方――には気付いているので、それが運営の予測を裏切ったためのバグであろうと判断していた。だったら自分ではどうにもできないし、どちらを使うか意識して発動すれば、取り敢えず誤爆はしないようだ。
(……【暴発】が何かしそうで心配だけど……事前に想定しておけば、何とかなるかもしれないし……増える分には問題無いよね)
多少の不安要素はあれど、【ファイアーランス】が使えるスキルだと確認できただけでも収穫はあった。
「オーク版の【ファイアーランス】も、思ってたより威力が大きかったしね」
以前に試した【ファイアーボール(オーク)】の威力がアレだったので、あまり期待はしていなかったのだが、これなら使うのに問題は無い。人間版の【ファイアーランス】と較べても、然程に遜色が無いようではないか。これならバースト射撃が可能な分だけ、人間版よりも使い勝手が良いかもしれぬ……
――などと算段しているシュウイは、【闇魔法の素地(オーク)】がちょっかいをかけた結果、【打撃力上昇】が【火魔法(オーク)】の威力を強化した……などとは夢にも考えていない。【闇魔法の素地(オーク)】の媒介効果は人間版の【ファイアーランス】には及ばないため、強化された【ファイアーランス(オーク)】と未強化の【ファイアーランス(人)】の差が縮まったのだが、そんな事はシュウイの関知するところではない。大体【打撃力上昇】というのは、物理攻撃の威力を高めるスキルではなかったか。
なのでシュウイの関心も、杖による打撃に対してどれだけの補正効果・強化効果があるのか――その一点に集中していた。ただし……
「う~ん……多分威力は上がってるんだと思うけど……うっかり【ウェイトコントロール】も使っちゃってたから、能く判んないな」
もはや完全に習慣化し、息をするように自然に【ウェイトコントロール】を発動するようになっている現在、杖の打撃力はそのままでも過剰な威力になっている。これにはシュウイの杖が「付喪神」として覚醒しつつあるのも影響しているらしく、何となくだが威力の乗りが良くなったような気がしていた。……なので【打撃力上昇】を取得する前から、スラストボアの頭骨ぐらいは一撃で粉砕できていたため、それが却って仇となって、【打撃力上昇】の効果が体感しづらくなっていた。
「……まぁ、多分だけど威力は上がってるみたいだし、パッシブスキルみたいだから使い勝手は良さそうだし……今後の展開に期待かな」
今後、今よりも硬いモンスターが現れた時に、【打撃力上昇】はその真価を発揮してくれるに違い無い。その日が来るのを楽しみに待てばいいだろう。




