第百八章 トンの町 4.東のフィールド~その他のスキル検証へ~
さて、【メビウスの壁】のレベルアップという当初の課題はクリアーした訳だが、折角ここまでやって来たのに、手ぶらで帰るのも勿体無い。……と言うか、折角人目の無い実験場――註.シュウイ視点――にまで来ておきながら、【メビウスの壁】の検証を済ませただけで帰るというのも芸が無い。【メビウスの壁】ほどの曲者ではないにせよ、未確認のスキルはまだまだあるのだ。ついでにこれらのチェックも済ませておかずに何とする。
「……とは言っても、ダンジョンのあても無いのに【ダンジョンアタックの心得】なんか確かめようが無いし、【梟の目】は多分夜でないと確認できないよね。いっそ【伐採】を試すのもありかなぁ……」
暫し考えていたシュウイであったが、使う当ての無い木材などでアイテムバッグの容量を圧迫したくないという実利的な判断から、【伐採】の試行は見送る事にした。
【利き酒】というスキル――一応レアスキルらしい――も未検証のままだが、これは抑野外で検証するようなスキルではない。ナントの言に拠れば、それなりに良い酒を飲む事でレベルアップするらしいが、そんな銘酒美酒の当てなどシュウイには……
「……あるとすれば、領主のパーティだよねぇ。どうせ石とか宝剣とか献上しなくちゃなんないんだし、その時に鯨飲馬食して育てればいいか」
――などと、領主が聞けば嘆きそうな方針をあっさりと決める。
「そうすると、残ったスキルは……どれもこれも戦闘で試すしか無さそうな……あ、いや。【魔力察知】があったっけ」
既に警戒系スキルとして【虫の知らせ】【嗅覚強化】【気配察知】【イカサマ破り】の四つを習得しているシュウイであるが、警戒系・探知系のスキルはあって困るものではない。況して今回拾ったのは、今までとは異なるベクトルからの索敵スキルである。これは早々に起動して有効化しておくべきだ。この後に未使用スキルのチェックを兼ねた戦闘行動が控えているとなると、猶更だろう。
一つ問題があるとすれば……
「……要ちゃんからは、レベルが低いうちは警戒スキルとしては、事実上役に立たないっ……て警告されてるんだよね……」
他の多くのスキルと同じように、【魔力察知】もスキルのレベルが低いうちは使いものにならない。どういう事かと言うと、その感度が著しく鈍いのである。有り体に言うなら、魔法による攻撃が放たれた後でしかそれを感知できないくらいに。
修練を積んでレベルを上げれば、魔法攻撃が発動する前の魔力の揺らぎを感知して、事前に避ける事も可能になるらしいが、そのレベルまで達するには一にも二にも訓練あるのみ……
「……って、要ちゃんも茜ちゃんも、口を揃えて言ってたっけ」
そこで話はモンスターのところに戻る。
モンスターの中にも魔法攻撃を放ってくるものはおり、中々油断できないのだが、拾いたての【魔力察知】でそれを察知するのは、まず無理というものなのであった。
弱肉強食の摂理の下に生きるモンスターは、平素から敵なり獲物なりにその存在を気取られない事を旨としている。魔力ダダ漏れのまま彷徨いたりしている訳が無い。ゆえに、新品下ろしたての【魔力察知】で、そんなモンスターの存在を察知できる訳が無く……
「……モンスター相手にレベルアップを図るのは、未だ時期尚早って事だよね」
となると、何か他に魔力を放っているものを対象にして、【魔力察知】を鍛えるより他は無い。そんな都合の好いものがあるだろうか。
実を言えば、無い事もないのである。
「要ちゃんたちはお互いに魔法を使って、その魔力を察知して鍛えた――って言ってたっけ」
「ワイルドフラワー」のように魔法職どうしのパーティというのは少ないだろうが、普通にパーティを組んでいる場合でも、狩りなどで魔法をブッパする事は多いので、訓練の機会に事欠くような事態にはならないらしい。
では、ソロで活動しているプレイヤーの場合はどうかと言うと、
「お一人様でそれが難しい場合には、作動中の魔道具を見たりして鍛える事もあるんだったっけ」
どこか掃除機にちょっかいをかける猫めいているが、スキルアップのためとあらば、背に腹はかえられないという事なのだろう。
ただし、シュウイがこの方法を採るに当たっては一つ問題があって、
「そんな都合の好い魔道具なんて、持ってないんだよね……」




