第百八章 トンの町 2.ナントの道具屋(その2)
「はぁ……そういう訳なんだ……」
説明を受けてシュウイの事情は理解したが、客の要求に応える事ができるかどうかはまた別問題で、
「さすがにフラフープとかは置いてないねぇ」
「桶の箍とかは? ありませんか?」
「いやぁ……桶の箍だけ欲しがる客もいないからねぇ……」
どちらかと言うと桶職人の許へ行くべきだろうが、抑このトンの町に桶職人がいるかどうか。βプレイヤーのナントと雖も、さすがに首を捻らざるを得ない。
シュウイは次善の策として、竹のような素材から自作するという事も考えたようだが……
「その系統の素材は見た事が無いねぇ」
「やっぱりですか……」
突っ込んで訊いた訳ではないが、瑞葉との会話でも、竹らしい植物の話題は出なかった。なので見込み薄でないかと思ってはいたが、実際にナントからそう言われると落胆を禁じ得ない。
「いや、それ以前に……そういう風に置いた板とかを、システムが〝障壁〟と見做してくれるかどうかが問題じゃない?」
「……やっぱり駄目でしょうか?」
匠から話を聞いた時にはいけそうな気がしたのだが……後になって考えると、そういうのが「障壁」にカウントされるかどうかが怪しいような気もしていた。
「うん。だってさ、もしもそういう置かれ方をしているものに対して壁抜けスキルが発動するようになったら、そっちの方が大変じゃない? 床とか橋とかも突き抜けちゃって」
「あ……」
――確かに。
SROの運営ならもう一つ捻って、訓練の内容でスキルの性質が変わるくらいの罠はしかけるかもしれない。足から輪っかに飛び込むような訓練でスキルのレベルを上げると、足元を突き抜けるような落とし穴系……ではなく、落ち込み穴系スキルに育つとか。
シュウイの懸念を聞いたナントは、そこまで面倒な設計をするだろうかと内心で首を傾げたが、プレイヤーの足を掬う事に執念を燃やすSROの運営ならあるかもしれないと思い直す。それに、懸念はもう一つあって――
「それに上下を逆にして考えたら、帽子とか笠とかも通り抜けちゃうよね?」
「あ……」
当然、ヘルメットタイプの防具――そんなものがあるのかどうかは知らないが――も擦り抜けてしまい、着用できないという事になる。デメリットは益々大きくなるだろう。
「それよりさぁ……通行人の迷惑にならないような小径に紐か何かを張って、そこに布でも吊っておいたら? そういうスクリーンなら、布製でも障壁と見做されるんじゃないかな?」
布そのものは店に置いてないが、マントか何かでも代用できる筈だ。厚みが欲しいなら敷き布団……は厚過ぎるかもしれないので、毛布か何かが手頃だろうか。
「あ、マントなら一応持ってます」
「だったら紐だけ買っていけば……いや……それよりシュウイ君、こないだテントを買ってったよね?」
あのテントはワンタッチで展開できる優れものだ。あれをどこかに設置して、そこにダイブするように突っ込んで行ったらどうなのか? それなら「障壁」と見做されるのではないか?
「あ……」
匠の思い付きよりよほど現実的なナントの提案に、なぜに自分で気付けなかったのかと、シュウイは軽く凹むのであった。
本日21時頃、「ぼくたちのマヨヒガ」を更新する予定です。こちらも宜しければご笑覧下さい。




