第百六章 その頃の彼ら 2.「ワイルドフラワー」(その2)
ここまで黙りを決め込んでいるが、場所についてはカナとセンに心当たりがあった。と言うか、どうせ蒐一がやらかしたに違い無いのだから、明日にでも学校で訊問して口を割らせ……訊けばいい。どの道匠もその気だろうし、情報の入手は難しくない筈だ。
そんな思案を巡らせていたカナであったが、いつしか他のメンバーの視線が自分に集中しているのに気が付くと、
「……そうね。ダンジョンの所在は不明だけど、手懸かりが皆無という事でもなさそうに思えるわね」
「「「――え?」」」
聞き捨てならぬとばかりに三人が色めき立つが、当のカナは情報源の事などおくびにも出さず、
「メッセージで言ってたでしょう? 〝ダンジョンシステムが解放された〟――って。ここで注意したいのは、〝システム〟っていう単語よね」
しれっとした顔で別方向からのアプローチ案を披露していた。
「システムの解放……つまり、これまでブロックされていた情報が……正確に言えば情報へのアプローチが解禁されたんじゃないかと思うのよ」
「あ……つまり……」
「住民からの聴き取りが可能になった……って事か」
「えぇ。あの運営が何の手懸かりも示さないとは思えないし、差し当たっての手懸かりとしては有望でしょう? 当ても無くその辺を探しまわるよりは効率的だと思えるし」
「「「う~ん……」」」
だとしたら無闇に山中を歩き廻るよりも、町へ出向いて住民への訊き込みに精を出した方が良い訳か?
しかし、そんな逡巡を吹き飛ばすように、
「この事に気付いたプレイヤーも、きっと少なからずいるでしょうね」
「……町は町でプレイヤーが群がってる訳かぁ……」
「仮に町へ向かって訊き込みをしても……」
「得られる情報という点では、他のプレイヤーと横並び――って事かぁ……」
「ん。団栗の背比べ」
山中を進んでも町へ赴いても、血眼のプレイヤーたちと出会す可能性が高い。単に遭遇するだけならまだしも、何か情報を得ようとして付き纏われたりするのは面倒だ。こういうのを〝進退窮まった〟と言うのだろうか……
しかし、げんなりしている一同に向けてカナが――幾分か面白そうな声音で――指摘したのは、
「あら? あたしたちには他にも当てがあるでしょう? それも、他のプレイヤーには辿り着けない当てが」
「え?」
「そんな都合の好い当てなんて……あ!?」
「従魔術師のウィルマさん!」
「それにアガサお婆さんとネイトさん!」
――そう。使役術師のクエストを熟さないと得られないコネクション。住民の従魔術師とその肉親こそ、これ以上無いほどの情報源ではないか?
どうせカナとセンのクエストの結果を報告すべく、彼らの許に向かっているところだったのだ。ここまでは――使役獣候補の物色がてら――ゆるゆると進んで来たが、事情が少し変わった今となっては、少しスピードをアップしても?
「勿論!」
「そうと決まれば急ぎましょう!」
「ん。異論無し」
――という事で「ワイルドフラワー」の一行は、先達の従魔術師たちに教えを請うべく、一路道を急ぐのであった。




