第一章 トンの町 3.初依頼
初依頼を完遂します……スキルの妨害にもめげずに。
馬鹿の相手を済ませた僕は、薬草採集の依頼を受ける事にした。予備知識も無しでモンスターの討伐依頼なんか受ける訳ないよね。受付のお姉さんに聞いたら、生育地は比較的近場のようだし、まずは大人しく採集をこなすとしよう。馬鹿のお蔭で懐も潤ったから、無理な依頼を受ける必要もない。ありがとう、馬鹿。
採集のスキルが無いため探すのに手間取ったが、何とか薬草二十本を採集する事に成功。このゲーム、対応するスキルが無くても行動自体は可能なのが嬉しい。かなり効率は悪いみたいだけどね。
町に戻ろうかと腰を上げたところで、ポーンという電子音が聞こえた。ステータスボードを確認すると、新しいスキルが増えている。
【落とし物】落とし物をする。パッシブスキル。
何? これってスキルなの?
嫌な予感がしてアイテムバッグの中身を表示すると、集めたばかりの薬草が無い。慌ててログを確認すると……
《【落とし物】の効果で薬草一束を失いました》
何でだよぉぉぉっっ!
・・・・・・・・
あれから再度薬草を探し回って、漸くの事で新たに二十本を集めてギルドへ向かう。何か……凄く疲れた気がする。
ギルドの受付に薬草を提出して、依頼完了の手続きを受けていると、後ろから声をかけられた。
「よぉ、シュウイ。お使いは無事に終わったのか?」
「タクか。お蔭さんで何とかね」
声をかけてきたのは友人の匠だろう。振り返ってみると、黒い鎧を身につけ、左右の腰に長剣を提げたキャラクターがいた。声と顔つきからして間違いなく匠だが、こいつのキャラ名は何だったっけ?
「タクマだ。……何か、妙に疲れてないか?」
「ちょっと色々あってね……アレ関係で」
「あー……PvPは原因じゃないんだな?」
「PvP? あんなのが原因の訳ないだろう? ……何で知ってるんだよ?」
「いや? 狂犬ガッツを笑いながら撲殺するなんて、お前しかいないだろ?」
「……僕、笑ってた?」
「らしいぞ。掲示板によると」
「掲示板!?」
「あちこちの掲示板がその話で持ち切りだ。よかったな、有名人」
「冗談じゃないよ……」
ただでさえスキルのせいで疲れてるのに、何で見せ物なんかに……。
「何かげっそりしてきたな……。疲れてるんなら宿屋に行ってログアウトした方がいいかもな」
「そうする……」
「あ、その前にフレンド登録しとこうぜ」
タクマはそう言うと何か操作していたが、やがて電子音と共に目の前に半透明なウィンドウが出現した。
《プレイヤー「タクマ」からフレンド登録の申請が来ています。受けますか? Y/N》
僕は迷わずYを押した。と、即座にまた別の電子音がして……
《【落とし物】の効果でフレンドのアドレスを失いました》
《落とし物を二回したので、スキル【落とし物】がLv2に上がりました》
「……悪い、タクマ、フレンド登録を落とした……」
「はあ?」
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《シュウイのスキル一覧》
レベル:種族レベル1
スキル:【しゃっくり Lv1】【地味 Lv1】【迷子 Lv1】【腹話術 Lv1】【解体 Lv1】【落とし物 Lv2】
ユニークスキル:【スキルコレクター Lv1】