第百六章 その頃の彼ら 1.「ワイルドフラワー」(その1)
ここで少し時間を遡って、シュウイたちによるダンジョンシステム解放のメッセージが流れた頃の、各地各位の反応を眺めてみる事にしよう。
最初に取り上げるのは、カナとセンたちの魔女っ子パーティ「ワイルドフラワー」の面々である。
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「ねぇねぇカナちゃん、これって……」
「根拠は無いけど……多分そうね……」
――というのが、ダンジョンシステム解放のメッセージを耳にしたセンとカナのコメントであった。証拠は無いが確信はある。既に使役系三職の解放なんて事をやらかしている、シュウイの仕業に違いないではないか。
「ね、ねぇカナ……〝これ〟って言うのは、ひょっとして例のワケありさん? ……あ、いや……確たる証拠も無しにこういうのを訊くのは、あたしとしても内心で忸怩たる思いがあるんだけど……」
怖ず怖ずと疑問を口にしたパーティリーダー・エリンへの回答は、柔やかなカナの微笑みであった。そしてパーティの仲間であれば、その微笑みの意味するところを読み違える事などありはしない。
――〝黙っていろ〟――
パーティの影の支配者たる女帝カナからの要請は、即刻了承されたのであった。
「……そ、それでさぁカナ……例の件はともかくとして……これからどうするのが良いと思う?」
「そうね……」
暫し瞑目したカナであったが、やがて口を開いて言うには……いや、その前に彼女たちの現状を説明しておこう。
カナとセンが目出度くイビルドッグ絡みのお題をクリアーした後、未だ使役獣を確保していないメンバーたちのために手頃なモンスターを物色しつつ、ゆるゆると帰途に就いている――というのが目下の状況であり、現在地はナンの町郊外の山中であった。
そこで問題になる〝これから〟の事というのは、解放されたというダンジョンを探すのかどうかという事である。
タクマたち攻略組からすれば無意味な問い――ダンジョンに突っ込まずにどうすると言うのだ――であったが、事「ワイルドフラワー」にとっては、これは悩みどころの問いかけなのであった。
誤解されている事も多いのだが、抑「ワイルドフラワー」は攻略チームではない。まったりのんびり魔法生活を楽しむ事を目的とする、気の置けない友人たちの集まりである。当面の目標は、残り三名のメンバーのための使役獣の確保であり、それによる戦力の向上である。そういう意味ではダンジョンのモンスターにも心引かれるものはあるし、ダンジョンの素材も魅力があるが……
「今頃みんな血走ってるよね?」
「〝血走ってる〟と言うか……目を血走らせてダンジョンを探してるのは確かだろうな」
「きっと雰囲気も殺伐だよね~」
「ん。混ざるのが躊躇われるくらい」
まったりのんびりというチームの方針とは、ほぼ間違い無く相容れないであろうダンジョン探索最前線。そこに参加するのかと考えると気が重くなる――というのが彼女たちの偽らざる心境なのであった。
確かにダンジョンモンスターにもドロップ品にも、興味が無いと言えば嘘になるが……
「あたしたち、別に素材の独占とかは考えてないもんね」
「だな。今のところ緊急に必要な素材も無いし」
「素材もモンスターも、情報が出揃ってからでいいわよね」
あまり乗り気にはなれない――というのがメンバーたちの総意であるらしい。
「大体さぁ、どこでダンジョンを探そうっていうのかねぇ」
「ん。メッセージでは場所とか何も言ってなかった」
「まぁ、確率論的に言えば、人数の多いナンの町か、目下の最前線であるアルファンの宿場町なんだろうけど……」




