第百四章 成り行きダンジョンアタック 20.チュートリアル~ラストステージ~(その7)
気配を隠して前進した一行が、敵リザードマンの集団を視界に入れる。どうやらまだこちらに気付いてはいないらしいと判断したシュウイたちは、数の不利を覆すために、遠距離からの奇襲を選択した。
テムジンとシュウイがそれぞれ長弓とクロスボウを構え、油断している下っ端から射殺する。ついつい大物を狙いたくなるが、そういう強者は狙撃にも敏感で、躱される事も多いのだという。雑魚とは言え数が揃っていては面倒になるので、ここは確実に数を減らす――というのが、SROのβプレイヤーにしてリアルでも本職であるテムジンの判断であり、一同もそれに従ったのである。
「――ゲッ!? グギャッ!」
狙撃を受けてこっちの存在に気付いたのだろう。指揮官らしいリザードマンの指示の下、兵卒らしきリザードマンが一気に間合いを詰めてくる。クロスボウの再装填は間に合わないと判断したシュウイは、取り出した投石紐を立て続けに振るって二頭に命中弾を与える。さすがに致命傷には至らなかったものの、それなりのダメージを与える事には成功したようだ。
「し、師匠……」
一方、長弓を構えるテムジンの方であるが、クロスボウより連射性能は高いものの、さすがにじっくり狙う程の猶予は与えてもらえなかった。一矢で急所を射抜く事ができないのなら、革鎧を纏うリザードマン相手に、牽制以上の事は難しいのではないか。
そう懸念していた新弟子二人であったが、
「ンギャッ!」
「グェッ!」
「「ふわっ!?」」
テムジンの矢を受けたリザードマンが爆炎に巻かれたのを見て瞠目する。どうやら予め鏃に魔石と火魔法を仕込んでおいて、炸裂弾のようなものに仕立てておいたらしい。成る程、色々と戦う工夫はあるものだ。
「けど……さすがにもう、弓や投石の距離じゃありませんね」
「あぁ、これからは近接戦闘になる。お前らもしっかり働けよ?」
「「……が、頑張ります」」
・・・・・・・・
襲いかかって来たリザードマンの攻撃を危なげ無く捌いていたシュウイであったが、そのリザードマンの動きに僅かの緊張が混じった事を、無意識のうちに見て取っていた。祖父仕込みの「歌枕流」がものを言ったのは無論であるが、そんな僅かな筋肉の緊張まで再現してしまうSROの技術も並みではない。
ともあれ、無意識のうちに警戒を取っていたシュウイであったが……リザードマンの狙いを曝いたのは「遊び人」であった。
「――グギャッ!?」
「……ゲ?」
「――え?」
何が起きたのかと言うと……どうも件のリザードマンは、尻尾での奇襲でシュウイの不意を衝く事を狙っていたらしい。一般人には存在しない尻尾による攻撃は、確かに決まれば効果は大きかったであろうが……この時は「遊び人」の【暴発】スキルがそれを阻んだ。……狙い澄ましたようなタイミングで、【左右】を暴発させる事によって。
シュウイを奇襲せんものと、狙い澄まして振った筈の尻尾の一撃は、右と左を間違えて、あろう事か隣にいたリザードマンを張り倒す事になった。シュウイが呆然としたのは無論であるが、それは左右を取り違えさせられたリザードマンも同じである。呆然と立ち尽くしているところへ、ユラリと起き上がった被害者のリザードマンが、加害者に対して渾身のシールドバッシュをぶちかます。そのまま泥沼の乱闘になりかけたのを、我に返ったシュウイが割り込んで仕留める事になった。そして――
「尻尾に気を付けて! 剣より遠間から振ってきます!」
シュウイが大声で警告する事で、リザードマンの手札を一枚曝いたのであった。
・・・・・・・・
「――くっ!」
「このこのっ!」
卓越した技倆で危なげ無くリザードマンをあしらっているテムジンとシュウイに較べて、新弟子二人は一頭のリザードマンを相手に苦戦中であった。それでも二人で協力する事でジリジリと押し込み、リザードマンが堪えきれずに後退しようとする。この機を逃してなるものかと追撃しようとしたところで――
「誘いだ! トラップに注意しろ!」
ベテランらしく弟子たちの様子にも目を配っていたテムジンが、経験の浅い弟子たちを釣ってトラップで仕留めるつもりだと見抜いて警告を発した。
「――うわっ!」
「ととっ!」
その甲斐あってトラップからは逃れたものの、バランスを崩して倒れる弟子たち。




