第百四章 成り行きダンジョンアタック 19.チュートリアル~ラストステージ~(その6)
難敵かと思われたキノコ人間を――運営の想定外の方法で――あっさりとクリアーした一行であったが、その行く手を阻まんものと待ち構えていたのは、
「……今度はリザードマンか」
「エネミーとしては本格派っぽいですよね」
偵察として先行していたモックが戻って来て告げたのは、この先に布陣して待ち構えているというリザードマンの情報であった。
「武器は片手剣、防具は革鎧と小さな盾かぁ……」
モックの仔細な報告から、〝小さな盾〟というものが実は、「バックラー」と呼ばれるラウンドシールドであると判明する。
「なら、その盾はただの防具と考えない方が良いな。バックラーなら確か、相手を殴るという使い方もできた筈だ」
「盾の縁で剣を引っ掛けるようにして、体勢を崩したりもできそうですね」
なぜか玄人はだしの武器通の二人――片や鍛冶職、片や転職前の冒険者――が、モックの報告から的確に敵の闘い方を推測してみせる。その内容に、
「それって……実質的な二刀流なんじゃ……」
新弟子たちは頬が引き攣るのを止められない。なのにテムジンの答は、
「あぁ、そう考えておいた方が無難だろう」
――と、無情を極めたものであった。
「大丈夫、これはチュートリアルなんだから、そこまで厄介な敵じゃない筈ですって」
励ましているつもりなのか、シュウイは言ってくれるが、彼の隔絶した戦闘能力を目にした身としては、気休めとしか思えない。ただし、シュウイの台詞には具体的なアドバイスが続いていた。
「小さいとは言っても片手に盾を持っている以上、敵の攻撃はほぼ片手剣に限定されます。バックラーによるシールドバッシュは、至近距離でしか使えませんから。そこに注意してやって、お二人が協力すれば大丈夫ですよ……多分」
最後の一言が安心を損ねているが、他に方法がある訳でもない。ここまで来た以上は諦めて、肚を括るしかないだろう。
「……それはいいんですけど、師匠……」
「勝算はあるんですか?」
訊ねられたテムジンはシュウイと目を見合わせるが、
「相手がこちらの存在を知って待ち構えているという事は、向こうには充分な用意があるという事だ。恐らくはトラップなども用意してあるんだろうな」
「つまり、敵は正面からの殴り合いを望んでいるという事です。だったら、僕らがそれに付き合ってやる理由はありませんよ」
「まぁ、向こうにもアサシンやアーチャー、マジシャンなどがいるかもしれんがな」
「だからモックたちは、姿を隠して戦況を見張っていて」
「「「はい!」」」
力強い三人の返事が揃ったところで、
「さぁ、我々も行くぞ」
「覚悟を決めて下さいね♪」
「「うへぇ~い……」」
新弟子たちのあまり力強くとは言えない返事も揃ったのであった。




