第百四章 成り行きダンジョンアタック 10.チュートリアル~サードステージ~(その1)
陰険性悪なチュートリアルが挑戦者――就中そのうちの二人――の心を好い感じに圧し折ったところでセカンドステージが終了し、
《サードステージはダンジョン内での採集・採掘についてです》
――というメッセージウィンドウが新たに表示される。
既に万事心得た一同が各々ウィンドウを眺め回し、隠されていた情報を回収していく。
例えば、ただの〝採集・採掘〟ではなく、〝ダンジョン内での採集・採掘〟である事、従って作業中に、モンスターやトラップに出会す可能性も低くない事だとか。
この情報が曝かれた時には新弟子たちのブーイングが酷かったが、これが〝ダンジョンのチュートリアル〟である事を考えると、寧ろ当然の仕様であろう。
それはともかく、作業の内容についてみると――
「あぁ……採集や採掘は定番どおりのスタイルなんだ」
「淡く発光した採掘ポイントを掘ればいいんだな」
それなら手慣れた作業だと安心していた新弟子たちであったが、
「問題は〝採掘スキルの効率化〟が、このダンジョン内でも通用するのかという事だな」
――というテムジンの指摘を受けて、難しい顔で考え込む事になった。
以前にも説明したが、採集・採掘系のスキルの場合、経験を積み重ねる事によって目当ての素材を発見する効率が高まってくる。つまり最適化が進む訳だが、その反面で、対象から外れた素材はスキルの方でスルーするようになってくる。つまり、〝本来のターゲットではないが、見過ごすには惜しい素材〟が採れなくなってくるのである。
例えば、テムジン工房の新弟子二人は、金属素材を主な対象として【採掘】スキルを鍛えている訳だが、これだとダンジョン内に埋まっている金銀財宝は【採掘】の対象外と見做されて、可惜貴重なお宝を見逃してしまう可能性が出て来るのだ。
「最適化の罠」と呼ばれるこの仕組みが、ダンジョン内でも通用するのかどうか。
単純に考えれば答は〝通用する〟であろうが……その一方で、出現するモンスターの種類組成などから判断すると、ダンジョンの中は外界とは条件が異なっている可能性が示唆されており、「最適化の罠」が発動しない可能性――と言うか、一縷の希望――も残されている。
「……まぁ、これについても我々が確かめるしか無いだろうな」
幸いにしてこのチームには、金属資源の採掘に特化したテムジン工房、宝石・貴石・貴金属に特化した宝石職人志望のエンジュ、一切特化させていないシュウイ――ただし保有しているのは【採掘】ではなく、【採掘の心得】と【採集の心得】――と、三通りのスキル保持者が揃っている。手分けして採掘ポイントを浚っていけば、見落としが出る事は少ないだろう。
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「う~ん……やっぱりダンジョン内では、特化させていない【採掘】スキルの方が有利なのかなぁ……」
「レベルは低くても未特化のスキルがあると、見落としが大分減るみたいだし」
暫しの採掘チュートリアルの後で、テムジン工房の新弟子たちは、そういう結論に至ったようだ。根拠はシュウイのスキルである。何しろ本来の【採掘】でも【採集】でもなく、それらの「心得」スキルしか持たない筈のシュウイが、新弟子二人やエンジュが見落とした〝お宝〟――冒険者の遺品っぽいものや非金属の素材など――をサクサクと回収していくのだ。それを見た彼らが斯かる結論に至ったのも、宜なる哉である。
脇に控えているテムジンも、その結論自体には同意するものの、
「一言注意しておくが、シュウイ君をスタンダードとして考えるなよ?」




