第百四章 成り行きダンジョンアタック 9.チュートリアル~セカンドステージ~(その3)
運営管理室の思惑と諦観はともかくとして、チュートリアルダンジョンについての説明文を読んでいた一同は、〝ランダム出現〟という箇所に引っかかりを覚えた。
「出現位置がランダムって事は……必ずしも初心者向けのトラップが出て来るとは限らないんじゃ……?」
懸念を示す$p①Gであったが、
「それはどうかな? だってさっきのモンスター、初心者向けの名に相応しいショボさだったよね?」
――というシュウイの指摘に考え込んだ。アレがショボかったかどうかはともかくとして、モンスターのステータスが弱体化させられていたのは事実である。という事は……
「トラップの種類とかはともかく、攻撃力は低下させてある――って事でしょうか?」
「かもしれんが……それでチュートリアルになるのか?」
トラップのチュートリアルと銘打つからには、発見や回避は無論の事、解除方法の講習ぐらいはあるのではないかと思っていたが、
「いえ、僕もそんな事を考えてましたけど……前の説明文で、やたらと【看破】の取得を推してましたよね?」
運営が【看破】の取得を勧めたところをみると、様々なトラップを体験させて、【看破】のレベルアップを図るのかもしれない。【鑑定】と同様に【看破】のスキルも、なるべく多くのトラップを見ないと、レベルアップしないのではないか?
シュウイの指摘はテムジンにも納得できるものだった。そして……
「……だとすると、今後は【看破】を使う機会が増えてくるという訳か?」
トラップ以外にも、鑑定を欺くようなものが多く出現するのかもしれない。例えば、素性を偽って逃亡中の犯罪者とか。
「……【看破】のスキルアップは不可欠か……」
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さて、そんなこんなの思惑の中で始まったトラップのチュートリアル。その内容は、新弟子たちとシュウイがそれぞれ予想した内容を合わせたものとなっていた。具体的には、危険度を大幅に下げたトラップが続出し、被害を受ける受けないに拘わらず、その後でトラップの説明が表示されるような仕様になっていたのである。
ここまではまぁ、或る程度予想された内容であったと言える。
――完全に予想外だったのは、それらのトラップの悪辣さであった。何しろ……
・仕掛け矢や落石のトラップが時間差で発動する。
・仕掛け矢か落石を避けると、避けた先の地面にビー玉が転がしてあって、足を滑らせて転倒する。
・地面の一部だけが粘着トラップになっていて、足を取られて転ぶ。
・落石を避けると、石が落ちた場所と避けた先がシーソーのようになっていて、上に跳ね飛ばされて頭を打つ。
・トラップは敢えて作動させて無効化するのも定番――とばかりに暴発させると、それがトリガーとなって別のトラップが起動する。
……などと、合わせ技の連続技でトラップが襲いかかって来るのである。幾ら個々のトラップは威力を落としてあるとは言っても、深夜枠のバラエティ番組に登場しそうなトラップを立て続けに喰らい続ければ、気分がヤサグレるのは避け得ない。一度など天井から金盥が落ちてきたし。
しかも――である。
今回はトラップ回避のチュートリアルという事で、【看破】を取った者――シュウイは【イカサマ破り】で参加――が交替で先頭を務めていたのだが、なぜか特定のメンバーに被害が集中したのである。
「「師匠! 俺たちに漢解除を押し付けてるんじゃないでしょうね!?」」
我が身を以てトラップを作動させ無効化するという、その名も勇ましき「漢解除」を繰り返す羽目になった新弟子二人が非難の声を上げるが、
「そういうつもりは無いんだが……」
非難されたテムジンも当惑顔である。
実際に他のメンバーもトラップには遭遇しているが、いずれも直前で回避に成功しているのだから、これは二人の不注意の為せる業である……と、一言で云えないのが現実な訳で、何故か二人が先頭を務める時に限って、悪辣なギミックや偽装が登場するのであるから、これは二人ならずとも文句の一つも言いたくなる。
いや、実際にはシュウイも結構陰険なトラップに当たっているのだが、シュウイの場合は【イカサマ破り】と【虫の知らせ】を筆頭にした警戒スキル、ついでに【鑑定EX】という〝チートな〟スキル群が良い仕事をして、トラップの悉くを回避してのけたのであった。
「経験値は得られるかもしれないけど、心を折りにくるチュートリアルですねぇ……」




