第百四章 成り行きダンジョンアタック 6.チュートリアル~セカンドステージ~(その1)
《セカンドステージはトラップへの対処です》
――というメッセージが現れた時、う~んと考え込んだのはテムジンであった。
スキル大尽のシュウイに確認してみたところ、トラップに対処できそうなスキルは一応保持しているものの、実際に使えるかどうかは未知数だという。
ならばシュウイを当てにするのは拙いだろうし、それ以上に……
「仮にもチュートリアルと銘打っている以上、シュウイ君一人にトラップを押し付けるのは間違っているだろう」
――と言われれば、シュウイも「はぁ……」と応じるしか無い。おかしな話なのは事実なのだ。
ここは自分たち――その大半が新人――も奮闘すべきだろうという結論は直ぐに出たが……さて、具体的にはどうやればいいのか。何しろ、SRO内でのダンジョンアタックなど先例が無い。先例の無いトラップ処理を、幾らチュートリアルと銘打っているとは言え、経験の乏しい新人たちに任せられるものか。他のゲームでの経験など、この曲者ゲーム内ではたしてどれだけ通用するか。
「……チュートリアルと言ってる割には不親切ですよね、このゲーム」
――と、エンジュがぼやいたところで気が付いた。
SROの運営が根性悪呼ばわりされる理由は、何を措いても〝親切丁寧なアドバイスを、不親切極まりない形で提示する〟というその一点に尽きる。アドバイスの存在に気付きさえすればサクサクと進める事ができるものを、そのアドバイスを判りにくい形で仕込んでおくのが、ここの運営の常套手段である。
なら……
「あの性悪の運営の事だ。どこかにヒントが隠してあるんじゃないのか?」
「可能性は高そうですね」
シュウイの同意を得たテムジンは暫く考えていたが、やがて徐にやって見せたのが、
「メッセージウィンドウの再呼び出し……そんな機能があるんですね……」
「一応はヘルプファイルにも載っているが、終わりの方にひっそりと書いてあるだけだから、気付かない者も多いようだな。自分はβテストの時に知ったのだが」
「熟々ここの運営は鬼畜ですねぇ……」
……運営側もシュウイにだけは言われたくなかったと思うが。
それはともかく、改めてメッセージウィンドウを――注意深く――見直したところ……
「……コレですかね。隅っこにある▼印」
「……ちょっと見には何かの飾りにしか見えないな」
半信半疑のテムジンであったが、ものは試しとその▼印を凝視したところ、
「……プルダウンメニューになっているな。ヘルプファイルが開いたようだ」
テムジンのアドバイスを受けて、シュウイたちも同じようにヘルプファイルを開いて中身を確認する。その結果判明したのは、
「一番手軽で効果的なのは、【看破】のスキルを取る事らしいな」
「【看破】って、【鑑定】の上位スキルじゃなかったんですね……」
スキルの説明文によると――
《【看破】 隠蔽・偽装・詐称などで隠された不自然な箇所を見破るスキル。【鑑定】とは別系統のスキルであるが、【鑑定】の上位スキルと間違われる事がある。
レッドネームプレイヤーに三回殺されると取得可能になる準レアスキルであったが、ダンジョンシステムの解放に伴って、SPを支払う事でも入手が可能になった》
「聞いた事が無いと思っていたが……PKK系のスキルだったとはな」
「ダンジョンシステムが解放された事で、俺らでも取得できるようになったみたいですね。……SPはそこそこ必要だけど」
「これもアレかな? それっぽい行動を取ってたら生えてきたりするのかな?」
「それっぽい行動って……【鑑定】との差別化が難しくないか?」
「それもあるが、今回はシュウイ君たちが一緒だという事を忘れるな。スキルを拾うために死に戻りを繰り返すような事はできん。……いや、その前に、一回クリアーしたらチュートリアルダンジョンが消滅する可能性も高いな」
「――マジっすか? ……だったらやっぱり、ここで取得する一択か」
――などと騒いでいるテムジン工房の面々は、結局全員が取得する事にしたようだ。
翻ってエンジュとモックの二人はと言うと、エンジュの方だけが取る事にしたようだ。それというのも……
「この先、仕掛けのあるアクセとか出てくる可能性もあると思うんです」
「……ありそうな話だね」
【看破】が一般解放された事を考えると、ここの運営ならそれくらいはやりかねない。エンジュの判断は妥当であろう。使い処が無さそうな瑞葉は、取得を見送る事にしたようだ。
そしてシュウイはと言えば……
(一応は準レアスキル扱いみたいだけど……さすがに捨てられてたりはしないだろうなぁ……)
「スキルコレクター」の制限によって、シュウイはSPを支払ってのスキル取得ができなくなっている。なのでトラップへの対処は、【イカサマ破り】と【虫の知らせ】、【鑑定EX】などが頼みとなるのであった。
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