第百四章 成り行きダンジョンアタック 4.チュートリアル~ファーストステージ~(その1)
――ゴブリン。ラノベやゲームでは定番の雑魚モンスターであるが、単体ではなく集団で襲って来るというその習性のゆえにゲーム初心者には荷が重いと判断されたのか、実はSROではトンの町周辺には出現しないモンスターであった。
「そんなモンスターが現れたって事は、ダンジョン内は外とは違うっていう宣言なんでしょうか?」
シュウイの疑問にテムジンが答えて言うのには、
「それもあるかもしれないが……チュートリアルダンジョンと銘打っている事を考えると、初心者向きという事を考慮しているのかもしれないな」
「初心者向き?」
ゴブリンが初心者向きというのはどういう事か? 初心者向きと言うのなら、トンの町にも出現して然るべきではないのか?
「ゴブリンは単独で出現する事はまず無くてね。複数で連携しての攻撃を仕掛けてくる。おまけに、ゴブリンアーチャーやゴブリンランサーなど、武器使用に特化した上級職も出現してくるし、ゴブリンマジシャンのように魔法を使うタイプもいる。そういう意味では初心者向きとは言えないんだよ」
「ははぁ……?」
……言っている事が、さっきとは違わないか?
「いや、混乱させて済まないが……要はゴブリン最大の脅威はその数と、連携しての遠距離攻撃にある。しかし、ここのダンジョンのように見通しの悪い場所だと……」
「あ……廻り込まれて包囲される危険は少ないし、飛び道具も使い勝手が悪い?」
「弓の射程より近い位置に、遮蔽物となる物陰があるからね。最初の一撃以外は無視していいだろう。……まぁ、それはこっちも同じだが……」
自身弓使いであるテムジンとしては、苦笑を禁じえないようだ。
「それであいつら、曲がり角に隠れてて、一向に襲って来ようとしないんですか……」
「奇襲を狙っているんだろうね」
――成る程。少数で登場させれば、ゴブリンの脅威もダンジョン内では低下する……少なくとも、運営がそのように調整するであろう事は理解できた。しかし、それを考慮しても〝初心者向き〟と言うのは?
「背は少し低いが、体型としては人間に近いだろう?」
「あぁ……確かに……」
SROはモンスター狩りを醍醐味の一つとしているが、抑リアルの生活でモンスターと戦った経験者などいる訳が無い。否、人間以外の動物と戦った経験のある者すら稀であろう。
「剣道とか格闘技とかも、飽くまで対人戦を念頭に置いた技術ですしね」
「そう。それを考えると、物陰からの奇襲という事で難度が上がった分は、人間と同じような体型のモンスターを配する事で、難度を調整しているとも考えられる」
「確かに……物陰からいきなり足首を咬まれて引き倒されたりしたら、後は死に戻り一直線ですよね」
成る程。それを考えると、ダンジョンに入って最初の相手がゴブリン――脅威度ダウングレード済み――というのは、それなりに筋の通ったものかもしれぬ。
「チュートリアルと銘打っている以上、先に進めばゴブリン以外のモンスターも出て来る可能性が高いが」
「今はとにかくゴブリンの相手をしますか。……律儀に待っててくれてるみたいだし」
「そうだな」
経験者二人の相談が終わったところで、お行儀良く後で待っていた新人たちに合図を送る。
徐にテムジンが弓に矢を番えたところで、シュウイが態と物音を立て……物陰から顔を出したゴブリンをテムジンの矢が射貫いたのを以て、ダンジョン内での戦闘チュートリアルが開始された。
奇襲を仕掛けるつもりが逆に奇襲を受ける事になり、狼狽しているゴブリンたちに素早くシュウイが――こっそり【疾駆】を使って――間を詰め、愛用の杖を振り回したところが……
「あ、あれ……?」
予想以上にあっさりと、ゴブリンたちが光に変わる。
「えーと……?」
「ふむ。どうやらゴブリンのステータスも、平均以下に弱体化させてあるようだ」
「あぁ、そういう事ですか」
「何しろチュートリアルだからな」
ここまで緩い相手というなら、ここは経験不足の新人たちに任せるのも手ではないのか?




