第百四章 成り行きダンジョンアタック 2.入場
外にいた筈の自分たちが、いつの間にか洞窟の中、それも入口付近などではなくかなり奥にいる事に、呆然として立ち尽くす一同。その中で真っ先に我に返ったのは、リアルでの職業柄なのかテムジンであった。
ちなみに、元凶の片割れとなった瑞葉――もう一人はダンジョンを掘り当てたシュウイ――はと言えば、採集に夢中で気付かないようだ。パニクらないだけマシかもしれない。
「アバターの位置情報を書き換えたか……」
テムジンの呟きがトリガーとなったのか、他の面々も我に返って辺りを警戒し始める。
「……これって……サイレントクエストってやつ?」
「いや、クエスト開始のメッセが流れたから、サイレントじゃないだろ」
「けど、クエスト参加の意思確認はされませんでしたよ?」
「強制クエ?」
困惑する一同であったが……実は、困惑しているのは運営側も同じであったりする。どういう事かと言うと、実際にはチュートリアルを受けるかどうかの確認がある筈だったのだが、我を忘れた瑞葉がダンジョン内に吶喊して採集行為に及んだため、ダンジョン内で活動する意思表示であると受け取られたのが原因であった。
要は意思確認のメッセージ表示が遅過ぎた――或いは、瑞葉の反応が早過ぎた――のが原因なのであるが、そんな裏事情がシュウイやテムジンに判ろう筈も無い。
「ともかく用心して進むとしよう。チュートリアルとは言っているが、その内容にも難易度にも言及が無かった」
「そうですね。油断は禁物だと思います」
……説明をする前に誰かさんが吶喊して、その機会を奪ってくれたのだが……
「――あ、テムジンさん。僕のジョブはどうしましょう?」
「ふむ……」
安全を期すなら元の「冒険者」に戻すべきだろうが、ここがチュートリアルダンジョンである――少なくとも、運営サイドはそう明言している――事を考えると、或る意味では千載一遇の好機とも言える。「遊び人」というジョブがダンジョンに通用するかどうか、それを確かめるチャンスではないのか? ……まぁ、ダンジョンがチュートリアル用で「遊び人」がシュウイであるという、あまり標準的でない組み合わせなのは事実であるが、それでも幾何かの情報は得られるだろう。
ここは死に戻り覚悟で、「遊び人」のまま挑戦すべきか?
(……いや……昨日の事を考えると、ここは寧ろ「遊び人」で挑戦した方が勝率が高くなるか?)
シュウイが言うには、「遊び人」の【暴発】スキルは、保有しているスキルの自動発動を補佐するという一面があるらしい。なら、何が起きるか判らないダンジョンとは、却って相性が良いかもしれぬ。
「……というような事を考えてみたんだが……どうだろうか?」
「そうですね……」
テムジンから相談を受けたシュウイも考える。
昨日の様子から判断した限り、「遊び人」のままでも歌枕流の使用には問題無かった。隠蔽系スキルも――時々態とファンブって、モンスターをおちょくっていたような気もするが――使用できていたし、警戒系のスキルも問題無く使えていた。
そうであれば――少なくとも自分のようなスキル構成の者にとっては――「遊び人」がダンジョンアタックの邪魔になるとは思えないし、どの道自分としては確かめておく必要がある。なら、サポート陣が充実している今こそがその好機であろう。
「解りました。やってみましょう」
――斯くして、「遊び人」の前衛によるチュートリアルダンジョンアタックという、恐らくはSRO史上空前にして絶後であろう挑戦が幕を開けたのであった。




