第百四章 成り行きダンジョンアタック 1.発見
この章も長丁場になります。
開放されたセーフティゾーンで無事に一夜を過ごし、SRO内の翌朝にシュウイがログインしてきたのは、いつもより少し早い時刻であった。それというのも、シュウイこと巧力蒐一の住んでいる地域が豪雨に見舞われ、学校が臨時休校となったためである。尤も、そんな事情をSRO内で口にするのも野暮な話なので、シュウイもあえて口にしてはいないが。
まぁそんな話はさて措いて、この日はトンの町に戻る予定だが、その前にもう一度切り通しで運試しをしてみようではないかという話になった。何の事かというと、モンスターの襲撃によって昨日試す事ができなかった、「遊び人」による採掘の件である。
「確かに、こんな時でもないと試しにくい、しかも重要かつ興味ある案件ですよね」
「そうだろう」
テムジンの提案を新人たちも拒否しなかった事で、朝食後に運試しをやってみる流れが決定する。そうは言っても、別に難しい事をする訳ではない。夕べの件以来ジョブを「遊び人」のままにしていたので、元に戻す前に少し崖を掘ってみるだけだ。一同気楽な気分で見物に回り、
「では――シュウイ、行きます!」
――という掛け声の下、シュウイが鶴嘴を一振りするのを見守っていたのだが……
「あれ?」
「「「「「「――へ?」」」」」」
――その一撃でボコリと開いた大穴……と言うか、有り体に言えば洞窟の入口を前に、呆然と立ち尽くす事になった。
「えーと……」
「……確かに、【採掘】スキルの対象になるのは鉱石だけでなく、廃墟の類もそうだとは聞いているが……」
「洞窟もそれに含まれるんですね……」
「これって……遺跡なんですか?」
「どうだろう……少なくとも洞窟自体は、人の手になるものではないようだが……」
「あ、廃坑とかじゃなくて」
「……鍾乳洞?」
「いや……洞窟にはそれ以外のものもあったと思うけど……火山洞窟とか……」
「ゲーム的には、モンスターが掘った穴――とか?」
「このサイズ穴を掘るモンスターって……どんだけだよ……?」
「ドラゴンとか?」
「おぃっ! 余計なフラグを立てるな!」
――などと一同が喧しく論を戦わせている中、一人離れて洞窟を――職業的興味を持って――覗き込んでいたのは瑞葉であった。
そして……そんな彼女の視界に、今まで見た事の無い植物が入ってくる。興味津々で【鑑定】した――何しろ【植物知識】を持っているので、初見の植物でも正確に判定できる――瑞葉は……
(あれって……「ヒカリゴケ」に「銀霊草」!?)
〝一部の洞窟にごく稀に生育し、【調薬】や【錬金術】、【調理】の素材となる。洞窟外での栽培も、容易ではないが可能〟――という説明文を目にするや否や、歓声を上げて洞窟内に吶喊して行った。まぁ、彼女的には正しい行動である。
その他の面々がギョッとして議論を中断し、洞窟に目を向けた時には、既に彼女の姿は洞窟内にあり、嬉々として、しかし丁寧に正確に、件の植物を採集しているところであった。
叫び声の正体が知れて安堵するやら呆れるやらのシュウイたちであったが……それはまだ少し早かったらしい。
《ダンジョンへのプレイヤーの進入を確認しました》
《ダンジョン内でのプレイヤーの採集行動を確認しました》
《チュートリアルダンジョンを起動します》
《参加者はダンジョン内に転送されます》
「「「「「「――へ?」」」」」」
瑞葉は地味にやらかしキャラです。




