第百三章 裏表探石行 11.クエストクリアー(その2)
さすがにβプレイヤーだけあって、テムジンはこのクエストの流れをほぼ正確に言い当てていた。
この原石採掘クエストは、トンの町の住人から〝綺麗な石の採れる小川〟の話を訊き出す事で始まる。ちなみに情報自体は冒険者ギルドでも――資料室や職員から――入手する事ができ、その他にも数名の住人が情報提供者として用意されていた。
そこから小川へと向かい、その後は――
1.小川で剥き出しの原石を採集する。
2.切り通しの崖の下で剥き出しの原石を採集する。
3.ノジュールを割って、中の原石を採集する。
4.一定時間採集を続ける。
5.モンスターの群れの襲撃を退ける。
6.ボスのクレイゴーレムを討伐する。
7.ノジュールの外被を採集する。
――と、連鎖的に課題が提出される仕様になっていた。
このうち2~6がセーフティゾーン開放クエストとなっているが、このセーフティゾーンは開放クエストをクリアーした者だけが利用できる仕様である。また、1~5を最初にクリアーした者に「先駆けのジュエルハンター」の称号が、それに加えて7を最初にクリアーした者に「先駆けの探鉱者」の称号が与えられる。いずれの場合も、クレイゴーレムの討伐は称号獲得の条件にはなっていない。
また、このクエストにおいては小川での採集は必須ではなく、この過程をスキップしていきなり「フォンの切り通し」での採掘に移っても問題は無い。ただしその場合、2~6をクリアーしてセーフティゾーンを開放しても、「ジュエルハンター」の称号は貰えない。これは「探鉱者」の称号も同じである。
ちなみに外被の採集自体は他の新人たちも手伝っていたが、【錬金術】を持っていない事と、アイテムバッグがテムジンのものだった事から、ただの手伝いと認識されたようだ。
なお、モンスターの群れとクレイゴーレムはほぼシュウイ――および使役獣二体――が片付けているが、他の面々もクエストクリアーの報酬だけでなく、【落とし物】のお裾分けにも与っている。一同甚恐縮していたが、主力として戦ったシュウイのドロップは、さすがにものが違っていた。質・量ともに段違いな上に……
(……「ゴーレムの核」なんてのがドロップしたけど……これがあるとゴーレムを創れるのかな……? 迂闊に喋らない方が良さそうだけど……)
これまでの経験から、シュウイは自分のドロップ品が、他人のそれとは少し違っている事に薄々気付いている。である以上、如何にもな感じの「ゴーレムの核」の事も黙っていた方が良さそうだと判断する。
しかも、どうやらこの核はゴーレムの体内でノジュール状に存在していたらしく、その外被までもがシュウイにドロップしていた。その外被に含まれている微量元素が、他のノジュールとは桁違いに高濃度であった事から、シュウイはこれをテムジンだけに伝える事を決める。後でこっそり相談する必要があるだろう。
さて、シュウイが警戒した「ゴーレムの核」であるが……これは――例によって例の如く――SRO史上初となるドロップ品であった。
少しばかりトリビアを披露しておくと、ユダヤの伝承に登場するゴーレムは額に「真理」と書かれた羊皮紙を貼り付ける事で起動し、この羊皮紙の文字から最初の一字を消して「死」とする事で破壊される。
しかしSROのゴーレムはこの伝承とは少し違っており、体内に「核」を持っている。これは大きめの魔石の表面にゴーレムを動かすための呪文が刻まれたものであり、この「核」を破壊するか、或いは核の表面に刻まれた呪文を――一定以上――傷付けて読めなくする事で、ゴーレムを破壊する事ができる。
そしてゴーレムを討伐した場合、その核もゴーレムの身体とともに朽ち果てるため、得られる事はまず無いと言ってよい。魔石は偶にドロップするが、これは「核」とは別物で、呪文のようなものは刻まれていない。
ではゴーレムから得られる素材は無いのかというと、討伐したゴーレムの身体の一部が素材としてドロップする仕様になっている。ウッドゴーレムなら木材、ストーンゴーレムなら石材、アイアンゴーレムなら鉄材であるが、クレイゴーレムの場合は粘土である。一応焼き物などの原料となるが、コストパフォーマンスは良くないと考えられていた……今までは。
「……ほぉ、クロムにニッケル、タングステンにバナジウムか……それも結構な濃度で含まれているな」
「あ! この土って培養土になるみたいです♪」
――と、焼き物以外にも複数の用途のある事が判明する。こうなるとクレイゴーレムの討伐を周回したいところであるが、生憎とセーフティゾーンを開放されたプレイヤーの前には、クエストボスたるクレイゴーレムは現れる事は無い。ゆえに、どこか別のところにいるクレイゴーレムを狙うしか無い。
そう――この時点でクレイゴーレムは、シュウイとテムジンにとっての優先狩猟対象となったのであった。
――それはともかく、話を「ゴーレムの核」に戻そう。
通常なら得られる筈の無い「ゴーレムの核」がシュウイの手にあるのはなぜかと言うと……実はこれ、ドロップ品として落ちたものではない。
では何なのかと言うと……
(……【暴発】が仕事して【奪刀術EX】が発動したのかぁ……)
本来なら相手の得物を奪うのが仕事の【奪刀術EX】であるが、これに「遊び人」の【暴発】スキルが干渉したせいで、ゴーレム体内の核を奪い取る事になったらしい。
尤も、幾ら【暴発】スキルがアレだと言っても、本来【奪刀術EX】に体内の魔石を奪うなどという機能は無い。なのでこんな事態は起きない筈であったが……
・・・・・・・・
「おぃっ! どういう事だ!?」
「幾ら想定外のスキルだと言っても、【奪刀術EX】は制圧スキルだろう!? 魔石だの内臓だのを奪い取る――なんて能力は無い筈だぞ!? ……無いよな?」
例によって怒号渦巻く運営管理室であったが、ログ解析の結果明らかになったのは……
「……【メビウスの壁】と【解体】が関わっているのか……」
「ちょっと待て……【メビウスの壁】は……少なくとも今の彼のレベルでは、閉鎖空間の壁は突破できない筈じゃなかったのか?」
「【堆肥作り】でゴーレムの身体が損壊していたのが原因のようですね。……あぁ、【暴発】も関わっているみたいです」
「何て事だ……」
「その後で、【掏摸】も【奪刀術EX】に協力したようですね。……と言うか、寧ろ実際には【掏摸】の方が主体で、【奪刀術EX】が手伝いのようです。派生スキルのせいか、【奪刀術EX】の方が目立ってますけど」
「【メビウスの壁】がゴーレムの硬い表皮を突破した事で、【解体】と【掏摸】が発動できたという訳か……」
一応の説明が――不本意ながら――付けられた事に、呻くしか無いスタッフたち。
だがしかし、幾ら【暴発】に戦闘補助の側面があるとは言っても、ここまで見事に【暴発】のチェインが繋がるものか?
「お忘れですか? 彼は『神に見込まれし者』称号の効果で、クエスト中の幸運値が上昇します」
「あ……」
「……彼は幾つかのクエストを遂行中だったな……」
「おまけに今も『セーフティゾーン開放クエスト』の真っ最中だ。……これくらいの幸運は当たり前か」
「何て迷惑なコンボなんだ……」
斯くして、運営管理室の怨嗟の声を尻目に、シュウイは「ゴーレムの核」という隠しアイテムの入手に成功したのであった。




