第百三章 裏表探石行 10.クエストクリアー(その1)
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「……え?」
左手に大きめの魔石のようなものを握って呆然としているシュウイの前で、頽れたクレイゴーレムが土に還っていく。
「えーと……?」
何が起きたか解らず、とりあえず手の中にある魔石のようなものを【鑑定】しようとしたところで、パンパカパーンとしか言いようの無いラッパの音と共に、空中に文字が浮かび上がる。
《「フォンの切り通し」のセーフティゾーン開放クエストをクリアーしました!!》
《クエスト参加者は以後、当該セーフティゾーンを使用する事が可能になります》
《ただし、セーフティゾーン外では普通にモンスターに襲われますので、注意して下さい》
「……はい?」
・・・・・・・・
何が何だか解らずに当惑していたその他の面々と、知恵を出し合い情報を総合して得られた結論は――
「……つまり、僕らはいつの間にかクエストに入り込んでいたと」
「それは疑いようが無い。実際に『セーフティゾーン開放クエスト』と言っていたからな。ただ……どの時点でクエストに入ったのかがはっきりしないんだが」
「それって、そんなに重要ですか?」
「再現性が問われるからね。まぁ、少なくとも当面は秘匿しておくとしても、永久に我々だけで独占し続ける訳にもいかないだろう」
「あぁ……確かに……」
SROにはこのような隠しクエストが幾つもある。当人たちが知らぬ間にクエストに参加させられるというのも大概な話だが、この手の隠しクエストの面倒なところは、クエストがどの時点で始まったのか、言葉を換えて言えば、クエスト開始のトリガーが確定できないところにあった。ゆえにこの手の隠しクエストは、リピータブルクエストであろうと思われていても、それを繰り返す事が難しいという難点があった。
また運営の底意地の悪い事に、この手の隠しクエストの報酬は中々美味しいものが多いため、二匹目の泥鰌を狙っては失敗して歯軋りをするプレイヤーが続出するようになっていた。
「リピータブルクエストなのは確かなんですか?」
これが一回こっきりのワンタイムクエストなら、後続者の事など心配する必要は無い。知らん顔をしていても何ら問題は無いのであるが、
「断言はできないにしても、まず間違い無い。抑ワンタイムクエストなら、報酬はもっと良いものが用意された筈だ。初心者向けの宝石の採掘地、より正確にはそこのセーフティゾーンというのは、ワンタイムクエストにしては些かショボい」
「あぁ……成る程……」
懐にいるシル――ワンタイムクエストの報酬として貰った幻獣――の事を思って納得するシュウイ。確かに宝石は貴重かもしれないが、ここでしか得られないというものではない筈。〝ワンタイム〟の名を冠する程のものではあるまい。
「もう一つ、称号に〝先駆けの~〟と付いているのも、自分の推測の裏付けになると思う。〝先駆け〟と言うからには、運営は後続が続く事を想定している筈だ」
「成る程」
実は、このクエストのクリアーに伴って、一同は称号を獲得していた。
エンジュとモック、瑞葉、およびドットにドルトンの五人は「先駆けのジュエルハンター」という称号を、シュウイとテムジンはそれに加えて「先駆けの探鉱者」という称号を獲得していたのである。
ちなみにエンジュに関しては称号だけでなく、転職の候補に「宝石職人」が追加されたというメッセージが届いたそうである。こういう通知が届くのはデフォルトの仕様ではないが、クエストクリアーに伴ってジョブの候補が解放された場合には偶にあるのだという。それを聞いたシュウイも、自身が「遊び人」のジョブを得た時の事に鑑みて、大いに納得したのであった。
些か話が逸れたが、自分たちが「先駆けのジュエルハンター」という称号を獲得している事は、〝先駆け〟でないただの「ジュエルハンター」がこの後も誕生する事を示唆している。少なくとも運営はそれを想定している筈だ。であるならば、「フォンの切り通し」という宝石産地をここで使い捨てにするとも思えない。
「宝石の採掘地としては他のプレイヤーも利用できるけど、セーフティゾーンを使えるのは僕らだけ――という可能性は?」
「その場合、我々がセーフティゾーンで寛いでいるのを、他のプレイヤーは指を銜えて眺めているだけ――という展開になる」
「あぁ……クレームが殺到しそうですよね」
――あの狡猾な運営が、そんな抜かった真似をする筈が無い。
「恐らくだが、この場所で一定時間採掘を続けるのが一つのトリガーなんだろう。それ以前のトリガーについては不明だが……」
「それ以前?」
「あぁ。これが隠しクエストというなら、最初のフラグを立てていない場合、抑この場所へ辿り着けないか、辿り着けても原石が採掘できない可能性がある。……その場合にも、モンスターやゴーレムは現れるのかもしれんがね」
「うわぁ……」
報酬も得られず単に危険なだけ――というトラップ仕様に思わず引きそうになるが、確かにここの運営なら、それくらいの事は仕組んでも不思議は無い。
「……話の腰を折ってすみませんでした」
「いや。話を続けるが、ここで一定時間採掘するか、もしくは時間が経過した場合、モンスターの群れに襲われるのだと思う。それを退けるとクレイゴーレムが現れ、更にそれを討伐した場合に、報酬が与えられるのだろう。……その報酬がセーフティゾーンなのかどうなのかは判らんが」
「あ……最初のフラグを立てていないと採掘自体ができない可能性があるから、そうするとセーフティゾーンというのは……」
「無用の長物だろう?」




