第百三章 裏表探石行 9.襲撃~第二波~
モンスターによる怒濤の襲撃イベントを乗り越えて気が緩んだのか、
「……終わったか?」
――と呟いたのは・払であり、
「おまっ! なに危険なフラグ立ててんだ!?」
――と、狼狽立腹したのが$p①Gであった。
「い……いや、そんなつもりじゃ……」
「このシチュでそんな定番の台詞を吐いたら、碌な事にならないのがお約束だろうが!」
幾ら何でも考え過ぎじゃないか――と思った他の面々であったが、
「フラグ立て乙。前座が引っ込んで、いよいよ真打ちの登場みたいだよ」
――と、どこか楽しげなシュウイの声に凍り付く事になった。
「し、真打ち?」
「うん、ホラ」
シュウイが指差した先に姿を現したのは……
「「ゴ、ゴーレム?」」
――クレイゴーレムの巨体であった。
実は、ここの宝石産地はイベントエリア、それもイベント開始の案内が出ないサイレントエリアの一つであった。ここで一定時間採掘を続けるとモンスターの群れが出現し、それを斃すと次にイベントボスのクレイゴーレムが現れる仕様になっていた。このクレイゴーレムを斃す事でイベントクリアーになるのだが……
「……さすがに……硬い……ねっ!」
特殊攻撃の類は持たないが、ただ只管に硬く、重く、力強く、おまけに火魔法・水魔法・風魔法が効きにくく、多少のダメージならその場で土を吸収して修復してしまうという、とことんプレイヤー泣かせのボスモンスターであった。幾ら覚醒間近とは言え、杖一本で渡り合うには荷が重い相手である。……通常であれば。
(……土で身体を修復するって事は、身体は基本的に土って事だよね……)
――なら、この場で選択すべきは土魔法だろう。生憎とシュウイは土魔法を持ってはいないが、それに類するスキルなら持っている。
「【堆肥作り】!」
シュウイが拾った【堆肥作り】というスキル、レベル1までは土の膨軟化ができるくらいだが、レベル2からはそれに加えて魔力の浸潤ができるようになる。有機肥料が作れるのはレベルが3になってからであり……シュウイは密かに、レベルが更に上がったらモンスターを肥料に変えるような暴挙も可能なのではないかと疑っていたりする。
だが――今現在目の前にいるクレイゴーレムが相手なら、レベル1でも充分に通用する筈だ。何しろ【堆肥作り】のレベル1でできるのは「土の膨軟化」。シュウイの狙いどおりなら、クレイゴーレムの硬い身体を「膨軟化」できるのではないか……?
「――よしっ!」
その賭は吉と出て、片方の膝から下を「膨軟化」されたクレイゴーレムはその部分を失い、転倒する事になったのである。
それだけでも大殊勲なのだが、更にもう一つ嬉しい誤算があった。
どうやら「堆肥化」された土はクレイゴーレムの支配を受け付けないようで、失った足を即座に修復できなかったのである。のみならず、「堆肥化」された土に覆われた部分もクレイゴーレムの支配を受けにくくなるようで……結果として、足を失って片膝立ちしているクレイゴーレムは、その場所の地面から土の補給を受ける事ができなくなっている。自分の身体を作っている土を、欠損部に廻す事で応急処置を済ませたようだが、その動きはぎごちないものとなっていた。
「――よしっ! いけそうだね!」
勝ち筋が見えた以上は、その筋に沿って手順を進めるだけだ。シュウイはじっくりとゴーレムを追い詰めるつもりであったが……「遊び人」の方はそこまで気長に待てなかったらしい。




