第百三章 裏表探石行 6.採掘と遊び人
ともあれ新人たちの協力も得て、シュウイたちはノジュールの確保に精を出したのであるが、
「転がり落ちてるのは、小さめのノジュールばかりですね」
「やはり大物は自分で掘り出すしかないようだな」
【採掘】と【素材鑑定】を使い倒してどうにかできないかと試した二人であったが、幸いにこの目論見は図に当たり、シュウイとテムジンは首尾好くノジュールを探し出せたのであるが……上手く熟せぬ者もいたのである。
「うぅ……駄目です。上手く認識できません」
失意の声で報告しているのはエンジュであった。
【錬金術】アーツの【素材鑑定】を持つテムジンや、既に【鑑定EX】にまで生長させたシュウイとは違い、彼女が持っているスキルは通常の【鑑定】のみである。それとは別に【宝飾】を取っている事で、彼女の【鑑定】は原石の品質まで見極める事ができるようになってはいるが……生憎とその「原石」はノジュールの外被に覆われており、「原石」としては察知も鑑定もできない。
テムジンとシュウイは、原石ではなく外被に含まれる微量元素の方を認識しているため問題無いのだが、「宝石職人」を目指すエンジュのスキルでは、問題の微量元素を認識する事はできないのであった。
「やっぱり無理かぁ……」
「まぁ、アプローチを続けていけば、いずれ認識できる日も来るだろう。……それがいつになるのかまでは判らないが」
「うぅ……」
役に立てないと解ったエンジュは涙目であるが、抑「宝石職人」という職種は「微量元素」の類を扱う職能ではない。クロム・コバルト・マンガン・モリブデン・ニッケル・バナジウム・タングステン……どれを取り上げても無骨な金属素材であり、それ単独で鑑賞に耐えるようなものではないし、彫金の素材としても使えない。
「まぁ、ノジュールを掘り出すのは僕らがやるから、エンジュはそれを割って原石を取り出して。あ、外被はマジックバッグに保管しておいてね」
「はい……」
自分一人だけスキルアップの優遇を受けているようで内心忸怩たるものがあるエンジュであったが、シュウイとテムジンにしてみれば、〝不要な原石を選り分ける手間が省ける〟程度の認識であった。寧ろ、か弱いエンジュを肉体労働に駆り立てる事をすまなく思っているのだから、双方の認識の食い違いもここまで来ればいっそ立派である。
両者の認識と誤解はさて措いて、新弟子たちの手伝いの下に、外被はサクサクとアイテムバッグ――一名マジックバッグ――に確保されていく。シュウイは――PK職から没収した――複数のアイテムバッグを所持しているし、テムジンはと言えば、この日のために手持ちの中で一番容量の大きいアイテムバッグを用意してきている。
崖下に転がっているのよりも一回り以上大きなノジュールを確保し終えたところで、テムジンがふと思い付いたようにその言葉を口にした。
「そう言えば……シュウイ君は『遊び人』をジョブを拾ったんだって?」
「えぇまぁ、成り行きで」
「成り行きでジョブを拾うというのも凄いが……実は、『遊び人』については以前から気になっている事があってね」
テムジンの関心は、不確実性の体現である「遊び人」が採掘に従事した場合、一体何を掘り出すのか――というものであった。
先に述べたように、【採掘】というスキルが対象とするものは鉄や銅などの金属鉱石だけではなく、宝石や貴石の原石、果ては古代遺物などの埋蔵物までもがその対象となっている。
一方で、採掘されるものは基本的にその場の特性によって決まっており、解り易く言えば、鉄鉱石の鉱脈からダイヤモンドを掘り出す事は無い――普通であれば。
――だが、そういった〝普通〟を根底からひっくり返すのが「遊び人」という職種である。
ならば、「遊び人」であるシュウイがこの場で【採掘】を行なった場合、一体何が得られるのか? 成る程、これはテムジンならずとも気になるところである。
テムジンからの示唆――「示唆」の「唆」の字は「唆す」と読む――を受けたシュウイが、それは面白いとばかりにノリノリで「遊び人」にジョブチェンジして、いざ採掘となったところで……シュウイの警戒系スキルに反応するものがあった。




