第十四章 トンの町 3.薬屋
ナントさんに教えてもらったのは地元の人が開いている薬屋さんで、この道五十年のベテランらしい。魔女を想像した僕の期待を裏切って、そこにいたのは……
「なんだ、坊主。儂の顔に何かついとるか?」
「あ、いえ。ベテランの薬屋さんって聞いて、なんとなく女性の方を想像していたものですから」
そこにいたのは、老齢とはいえがっしりとした体躯のお爺さんだった。雰囲気的には僕の祖父ちゃんに似てるな……堅気に見えないところとか。
「ははっ。て事は、坊主も『異邦人』か? 連中は皆そう言いよる」
あ……やっぱり他のプレイヤーも同じ事を考えたんだ。年老いた薬屋さんと言われれば、想像するのは魔女だよね。
「これでも若い頃は冒険者をしとってな。上級薬師の免状を取る前に、冒険者稼業で習い憶えた薬なんかもあるんで、まぁ、真っ当な薬屋とはちと違うがな。効果の方は保証するぞ」
「ナントさんのお勧めですから、そこは安心してます」
「なんだ、坊主はナントの客か? だったらきっちり面倒みてやらにゃいかんな。で、何が欲しい?」
「ポーションが欲しいんですけど」
「ポーションと一口に言っても色々あるぞ。体力回復と傷の修復に効果のある一般的な体力回復ポーションの他に、魔力回復や解毒用のポーションもある。解毒ポーションは効果によって別々になるしな。更に、それぞれのポーションに上級から下級、等級外のものがある」
「あの……等級外というのは?」
「そのままの意味だ。効果が低くてポーションと言うのすら烏滸がましい代物だが、簡単な怪我や疲労程度には充分だし、その分安い。薬師見習いの駆け出し共が練習と小遣い稼ぎを兼ねて作っとる」
「そんなにあるんですか……」
「どういう場面で使いたいのかを言えば、適当なやつを選んでやるぞ?」
ここはお爺さんのお薦めに従うべきだよね。
「え~と。知り合いが従魔を欲しいと言うんで、南のフィールドへ狩りに行くんです。その時の怪我や疲労に備えるためというのと、あと、ナントさんが契約対象の魔獣にも必要じゃないかと言うんで」
「うん? 坊主が従魔を欲しい訳じゃないのか?」
「あ、それはそうなんですが、ポーションなら買っておいて損はないかなと。それに、僕も従魔が欲しくなるかも知れませんし」
従魔用のポーションについては、シルの事もあるし、是非知っておきたいよね。
「従魔のポーションのう……馬なんかには普通のポーションで通用したから、人間用のポーションで充分じゃと思うが……。しかし、従魔の傷やなんかは、使役者の精気で回復したと思うぞ?」
「そうなんですか? でも、早めに回復して欲しい場合もあると思いますし……やっぱり買っておきます」
「ふむ。従魔が傷を負うようでは使役者も無事とはいかんじゃろうし……その方が賢明かもしれんな。南のフィールドと言うたか? あそこなら大したモンスターは出んじゃろうから、下級の体力回復ポーションと魔力回復ポーションで充分じゃろう」
「ありがとうございます。……参考までに、北や東のフィールドに行こうとしたら、どんなポーションが必要ですか?」
そう訊ねると、お爺さんはじろじろと僕の方を見ていたけど……
「坊主は見かけよりは使えそうじゃが、無理をしてはいかんぞ。引くべき時には引くのが生き残るコツじゃ。ま、『異邦人』はしぶといと聞くが……。おぉ、北と東のフィールドじゃったな。溶血毒・出血毒と麻痺毒を持つのがおるが、石化や睡眠持ちはおらんし、ゾンビの類も出て来んから、それぞれの解毒ポーションの中級、それに体力回復ポーションと魔力回復ポーションの同じく中級で充分じゃろう」
わ♪ フィールドの情報も教えてもらえちゃったよ。うん、いい人だね。
「ありがとうございます。じゃあ、全部を一セット……いえ、二セット下さい」
「うむ。……これだけじゃな。ポーションには使用期限があるでの、後生大事に抱え込まずに、使い時と思ったら躊躇わず使うのがコツじゃぞ」
「はい!」
「良い返事じゃ。儂はバランドという。薬の事で聞きたい事があれば、いつでも来るがええ」
「ありがとうございます。僕はシュウイと言います。しばらくこの町に滞在するつもりなので、今後もお世話になると思います」
次話は金曜日投稿の予定です。




