第百三章 裏表探石行 3.分かれ道
水晶やら石榴石やらの原石が川底に転がっている以上、その原産地は川上にある筈――という、甚く妥当な推理に従って川筋を遡ってきた一行であったが、ここで文字通りの岐路に立たされていた。何かと言うと、川が本流と支流の二つに分かれているのである。
どちらかの上流に原産地があるのだろうが、〝どちらの上流に進んでも何かしらの原産地がある〟――などという甘い期待は誰一人抱いていない。ここの運営がそんな親切なタマであるものか。
「本流の方が石も多いし、期待できそうな雰囲気ではあるんですよね」
「対して支流は流れも細く、石もあまり転がっていない――か」
「道としては本流沿いの方が広くて、通行人も多いみたいですよ」
シュウイ・テムジン・モックがそれぞれに意見を述べる。一見すると本流を遡るよう勧められているようだが……
「でもなぁ……ここの運営の事だから……」
真っ先に疑念を表明したのは、密かに被害者筆頭を自認しているシュウイであったが、テムジンも別の視点からそれに同調する。
「見た感じだと、本流の先には原産地っぽい地形が見当たらない。という事は、かなり先まで進む事を強いられる訳だが……メタな発想だが、原石を探すだけでそこまで遠出を要求するだろうか?」
宝石職人というのは第二次参入組から用意された職業である。ゆえに、その職を選んだ、もしくは選ぼうとしている者も初心者である訳で、なのにそこまで難度の高い採集行を要求するとは思えない。況してや、ここは初心者御用達の、トンの町の郊外である……という意見には説得力があった。
「エンジュの方はそう? 何か見つかった?」
「駄目です。どっちにも原石っぽいものは落ちてません」
新弟子二人の護衛の下に川底を調べていたエンジュであったが、どちらにも原石らしきものは落ちていないと報告する。この手の選択が出る場合は、然り気無い形で何らかの手懸かりが用意されているものだが……
「……飽くまで想像なんですけど……多分、どっちの道を進んでも、何かしらの進展はあるんじゃないでしょうか。例えば……本道を進むと盗賊に襲われている宝石商人に出会うとか……」
「テンプレだなぁ……」
「だが、ここの運営の事を考えると、それくらいの手配はしていそうだな」
……どっちに進んでもテンプレの展開。本道が盗賊イベントなら、支道の先に待っているのは……モンスター……?
――などと、しょうもない不安に取り憑かれて支流に目を遣っていた瑞葉であったが、それが功を奏したのか、とあるものに気付く事になった。
(……何だろ? あれ……)
見れば川沿いに初見の植物が、ひっそり閑と生えているではないか。【植物知識】のスキルを持つ彼女が【鑑定】したところ、その植物は――
「……クロマ草? 何かの素材になるのかな……?」
――ポツリと呟いたその言葉が引き起こした反応は激烈であった。
「「――何だって!?」」
「ヒっ!?」
ただならぬ形相の強面二人――シュウイとテムジン――に詰め寄られて、瑞葉はあわや腰を抜かしそうになる。……が、これは或る意味で仕方のない事であったろう。
それというのもこのクロマ草、鋼にクロムを添加する際に触媒として使われるものであり……早い話が、シュウイとテムジンが目論んでいる特殊鋼の製造には、無くてはならぬ素材の一つであったのだ。
そんなものが生えているという事は――
「決まりだな。我々は支流を遡るべきだ」
「そうと決まれば急ぎましょう」
どう考えても宝石職人向けの手懸かりではないような気がするが、そんな些事には目もくれず、シュウイとテムジンは支流を遡る事を決定するのであった。




