第百三章 裏表探石行 2.川の流れの中で
――【採掘】を例にとって説明しよう。
このスキルの対象となるものは鉄や銅などの金属鉱石だけではなく、宝石や貴石の原石、果ては古代遺物などの埋蔵物までもが【採掘】の対象となる。
最初のうちはこれら全ての採掘ポイントがうっすら光って見えるため、目当ての素材を得るのに手間取るが、やがて、就いているジョブや保有しているスキル、行動経験などによる最適化を受け、目当ての素材だけが光って見えるようになる。
今回のメンバーで言えば、【鍛冶】スキルを鍛えている新弟子二人の【採掘】は鉄や銅などの金属鉱石を見つけるのに特化しており、【鍛冶】に加えて【宝飾】を持っているエンジュだと宝石・貴石や貴金属を見つけ易いという事になる。
謂わば互いに補完し合う関係になるため、チームとして見た場合には隙が少ないと言えるのだが……見方を変えれば、新弟子二人はエンジュの手伝いとしては役に立たないという事でもある。
斯くして、〝好い人っぽいけど役には立たない〟という評価がエンジュの中で固まる次第と相成ったのであった。
ちなみに、シュウイとテムジンの二人はと言うと、採掘系のスキルではなく【素材鑑定】――シュウイはその上位スキルの【鑑定EX】――を活用して探すつもりであった。抑、二人が欲しいのは宝石ではなく、母岩に含まれているであろう微量元素なので、それらが散逸しているであろう河床の転石は本命ではない。まぁ、二人ともスキルを鍛えるために、そこそこ使ってはいるのだが。
そんな周りの事情には目もくれず、一心不乱に原石を探していたエンジュが最初に見つけたのは、割と品質の高い紫水晶であった。歓声を上げるエンジュを他所に、
「紫水晶かぁ……」
「確か紫の発色は、鉄イオンがスペクトルの黄色を吸収するために、その補色である紫が通過するのが原因だった筈だ」
「せめて紅水晶だったら、チタンやマンガンが期待できたんですけどねぇ……」
「住民の子供でも拾えるようなものだからな。こんな近場でそこまでのものは期待するなという事だろう」
ヒソヒソと内輪話をしていた二人であったが、一際高いエンジュの歓声がそれを破る。
「……何か見つけたみたいですよ?」
「……行ってみるか」
シュウイとテムジンが近寄ってみると、喜色を浮かべたエンジュの廻りを新人たちが取り囲み、エンジュが手に持つ何かに見入って騒いでいる。
「……周りの警戒はそっちのけかぁ……」
「まぁ、そっちは我々が代行しているからな。それより――」
「えぇ。何か見つけたの?」
「あ、シュウイさん! 見て下さい! パイロープ・ガーネットです!」
「「石榴石?」」
シュウイとテムジンも身を乗り出すが、この二人の関心は些か別のところにあった。
(「テムジンさん、確か石榴石って……」)
(「あぁ。混入した元素によって色合いが変わるタイプの宝石だ。パイロープ・ガーネットは確か……鉄とクロムが発色の原因だった筈だ」)
(「クロム……僕たちの本命ですね」)
(「あぁ、大本命の一つだ」)
――そうと判れば、こんな小川に用は無い。
「よし。そろそろ出発するよ」
「え――っ!? 折角ガーネットを見つけたのに。せめてもう少し……」
「駄目々々。こんなところで時間を潰してちゃ、目的地に行くまでに日が暮れちゃうよ」
その〝目的地〟の所在がまだ知れていないという事にはチラとも触れない辺り、シュウイも存外に強かである。
「う~……」
「もう場所が判ってるんだから、後で幾らでも採集に来れるじゃん。ここぐらいなら自分たちだけでも来れるよね?」
トンの町から然して離れていないのだから、自分たちだけでも来られるだろうと言われてしまえば、エンジュもそれ以上反対はしづらい。何しろ住民の子供たちが石拾いにやって来るような場所なのだ。それに加えて、原産地にはもっと大粒の原石がゴロゴロしている筈だと唆されれば、エンジュの気持ちもぐらつこうというもの。折角これだけのメンバーが揃っているのだから、今回は少し難度の高い場所を優先するのが正解ではないか……?
――斯くして、一行は小川を後にして、まだ見ぬ〝原産地〟を目指したのであった。




