第百三章 裏表探石行 1.小川にて
トンの街を離れたシュウイたちの一行は、特に何のアクシデントにも遭わず、第一目的地である小川に近付いていた。
表向きは〝エンジュを始めとする新人たちのスキルアップキャンプ〟であるが、その実はシュウイとテムジンが〝宝石の原石もしくは母岩に含まれているであろう稀少金属を確保する〟ための採集行であり、その第一目的地が、町の子供に教えてもらった〝綺麗な石の採れる小川〟なのである。
シュウイにせよテムジンにせよ、有るか無いかも判らない宝石を、ぶっつけ本番で探しに山へ入るような真似はしない。先に川で問題の〝綺麗な石〟を探し、使えるかどうかを判定してから――というのは当然であった。どんな稀少金属が期待できるのかも知っておきたいし。
「現実だと、翡翠とかチャートとか水晶とかですかね? 黒曜石や瑪瑙もありかな?」
「川で採れるかどうかは判らんが孔雀石やオパール……菊花石というのもありかもしれないな。現実的には――だが」
問題は、彼らが狙っているような微量元素が含まれる宝石が手に入るか……シュウイとテムジンの関心はその一点にかかっている。その意味では、鉱物粒子の混入によって着色している瑪瑙や碧玉などはあまり嬉しくない。宝石職人志望のエンジュはそれでも大喜びだろうし、シュウイも領主からアクセサリーの素材採集を依頼されているので、無用という訳ではないのであるが。
「本命は含まれる微量元素によって発色が変わる、サファイアとルビーとかですよね」
「あぁ。その他に石榴石やエメラルドも考えられるが……エメラルドの場合はエメラルドとアクアマリンの二種類だけだからな。微量元素の種類を稼ぐ上では、あまり好ましくないかもしれん」
その辺りの評価が食い違った時に、新人たちにはどう説明するべきか。そんな事を考えているうちにも足取りは進み、
「……橋を越えた先のヤナギの木……テムジンさん、多分この辺りだと思います」
町の少年ニックから訊き出した場所に辿り着いたところで、シュウイは一同に第一目的地到着を宣言する。途中一回の休憩を入れはしたが、幸いにへばっている者はいなかった。密かに瑞葉の事を懸念していたシュウイであったが、人見知りと体力は別の問題らしい。
エンジュが嬉々として小川に降りて採集を始めると、テムジン工房の新弟子二人が手伝いを申し出る。どうやらここまでの行程で、対人恐怖症気味の瑞葉は攻略困難と判断したらしい。ありがたそうに礼を言うエンジュであったが、その関心は既に原石へと向いているらしく、気もそぞろといった体である。
「あ、じゃあ僕は辺りの警戒に就いてますね」
「あ、お願いね♪」
警戒を買って出たモックに、笑顔で感謝の言葉を紡ぐエンジュ。しまった、そっちの方が好感度を稼げたか――などと内心で後悔する新弟子二人だが、抑【警戒】スキルの方は碌に鍛えていなかったりする。
翻ってモックはと言えば、シュウイのスパルタ特訓の後もフィールドで採集依頼を熟していたらしく、【警戒】は既にLv3に上がっている。これはエンジュも同じであって、新弟子二人はその方面ではほとんど役に立たない事が判明する。
斯くいった次第で、自分たちが好感度を稼ぐにはこれしか無いとばかりに、新弟子二人は慣れぬ原石探しに手を出したのであるが……
「……苦労しているようだな……」
「お弟子さん、そっち系のスキルは持ってないんですか?」
「【採掘】は取っていたが……【鍛冶】スキルを取った時点で、【採掘】の対象も鉄とかが中心となるからな」
「嫌な感じに効率的ですねぇ……」
採集や採掘系のスキルを持っていると、採集・採掘すべきポイントがうっすらと光って見えるようになる。最初のうちは本命以外の〝外道〟に当たる事も少なくないのだが、経験を重ねていくごとに、必要な素材を迅速・的確に見つけ出せるように〝最適化〟が進んでいく。基本的にはありがたい仕様なのであるが……
「そのせいで、いつもと違った素材が必要になった時には、却って見つけ出すのに時間がかかる――と」
「〝最適化の罠〟と言われているやつだな」




