第百二章 トンの町 10.冒険者ギルド
そんなこんなの一幕の後でテムジン工房を後にした一行は、その足で冒険者ギルドに向かった。愛用の杖を持ったシュウイと弓を携えたテムジンが先を行き、弟子二人が少し間を置いて後に続く。こちらの二人の弟子が持つのは、最近自分で打ったという剣である。シュウイに初心者の剣の使い方を見せられて少し悩んだようだが、テムジンの一喝で自作の剣を持って行く事になったのだ。苟も鍛冶師を目指す者、自分の打った剣が使えるかどうかを確認しておくのは当たり前――というのがその主張であった。尤もな話である。
ちなみに一行のリーダーは、唯一のβプレイヤーにして、SRO内でもリアルでも野営の経験が豊富なテムジン――リアルの職業は自衛官――が務める事になった。ただし、スキル構成を考慮して、モンスターの相手は――警戒も含めて――シュウイが主として受け持つ事になっている。とは言え、各自もそれぞれ警戒する事を要求されているのは勿論である。
そして、目下シュウイの懐にいる従魔と召喚獣の事をどうするかについては……
「機を見てお披露目しようと思います。僕の召喚獣という事にして」
「ふむ、【召喚術】の事だけ明かすという訳かね?」
「えぇ。どのみち食餌とかの世話も必要だし、完全に隠し通すのは無理だと思いますから」
「確かに」
――ちなみに、テムジンには既にシュウイの事情を説明済みである。
「えぇ。タクマたちとも相談したんですけど、シルを召喚獣って事にしておくのが、現状では一番無難じゃないかという事になって」
「成る程」
「【召喚術】は後付けで拾ったという事にして、こいつらの能力とか正体とかは適当に誤魔化しておこうかと」
「……まぁ、それが無難だろうね。色々と明かせない事が多いようだから」
――幻獣とか進化種とかユニークスキルの事とか、召喚獣のマハラが称号を持っている事とか。
「あはは……」
「ま、自分も微力ながら協力しよう」
「宜しくお願いします」
「それにしても、予定より人数が増えるようだね?」
そう言うテムジンが口にしたのは、急遽参加する事になった瑞葉の事である。彼女については事前にシュウイから問い合わせがあり、自分でも問題無いと返事はしたが、引率者として無関心ではいられないのもまた事実であった。
「えぇ。ま、瑞葉の面倒は僕たちが見ます。うちの新人二人とも顔見知りのようですし」
「ふむ。聞いたところあまり人付き合いが得意なようではないから、彼女としてもその方がいいだろう。うちの弟子どもが狙っているようだが……ま、そっちは自分が牽制しよう」
何しろテムジン工房は男世帯な上、工房を訪れる者も圧倒的に男が多い。これが武器屋なら女性の冒険者も訪れるのだろうが、現状でテムジン工房は販売までは手がけていない。やって来るのは武器屋の店主か、顔馴染みとなった鍛冶師ぐらい。どちらも圧倒的に男が多い。それも思いっ切りむさいのが。
なので女性と会う機会が少ない新弟子二人としては、シュウイが連れて来るという妙齢の女子二人が気になって仕方がないようである。
(さて……どうなる事やら……)
シュウイを除いても新人ばかり五名を引率する羽目になったテムジンは、心中密かに〝早まったか?〟と後悔していたが、まぁ何とかなるだろうと思い直した。後輩の引率は初めてではないし、シュウイも結構使えそうだ。少女二人と少年一人をシュウイが引き受けてくれると言うなら、自分は弟子二人の面倒を見ればいい。それくらいなら何とかなるだろう。
・・・・・・・・
そんなこんなで冒険者ギルドに着いた一行は、そこで残りの三名――エンジュ・モック・瑞葉と無事合流を果たした。そのまま出発するのかと思いきや、シュウイはギルドの女子職員と何か話し込んでいる。その様子を新弟子二人は羨ましそうに見ていたが……実は、シュウイが女子職員たちに頼んでいるのは、ギルドの中庭に植えられたズートの苗の世話であった。
シュウイはログインの度にギルドを訪れては、苗に水やら魔力やらを与えている。お蔭でズートの苗は順調に生育しているのだが、今回キャンプで町を空けるため、その間は世話ができなくなる。なので、留守中の世話を彼女たちにお願いしている――という次第なのであった。
ちなみに瑞葉の場合はどうなのかというと、「園芸家」と「種苗農家」の職業スキルにその手のスキルがあったため、事無きを得ていた。
なお、ズートの苗の事は、話す機会が無かった事もあって、エンジュやモックにも教えていない。女子職員にも明かしてはいないのだが、目敏い彼女たちは薄々苗の正体に気付いているようだ。
何しろズートの木と言えば、葉も実もそれぞれ一級の素材と食品になるという代物。うっかり余人に知られては面倒な事になる。そこでシュウイは、不心得者が手を出せないようにと、ギルドの中庭にそれを植えたのである。
ギルドを実質的に差配――もしくは支配――している彼女たちが、日頃から丹誠込めて世話をしている中庭の花壇。そこを荒らそうなどという命知らずはいない筈だという判断である。
ついでに言うと、自分でもズートの苗を世話している瑞葉が中庭を見れば、一発で苗の正体に気付いたであろうが……対人恐怖症気味の瑞葉にとって、大勢が屯する冒険者ギルドというのはどうにも敷居が高く、訪れる事は滅多に無かった。なので中庭の花壇の事を知る機会も無く、本日もズートの秘密は保たれたのであった。
……それが好い事なのかどうかは別として。




