第百二章 トンの町 9.テムジン工房~初心者の剣の使い方~
妙な行き掛かりでテムジンから、新弟子二人に戦い方の教授を頼まれたシュウイ。別に戦い方を指南するくらいは構わないのだが、話の成り行きを考えると、「初心者の剣」を用いての戦い方を教授した方が良いだろう。
しかし、自分は「剣」のスキルなど――バーチャルでもリアルでも――持っていないし、何より初心者の弟子二人にも熟せる程度の技術でないと、教える意味が無いだろう。
――そう思案したシュウイが選んだのは……
「それじゃ……二人の言う〝丈夫だけが取り柄の鈍〟の使い方、その一端を見せるけど……これが最適解という訳じゃないからね? 飽くまで参考程度のものだと思って」
そう言うとシュウイは「初心者の剣」を手に取って、二人に打ちかかってくるよう命じる。些か戸惑った様子の弟子たちであったが、先陣は「$p①G」ことドルトンが務める事になったらしい。剣を普通の中段に構えたのを見て取ると、シュウイは挑発するかのような半身の構え――ほとんど相手に背中を見せるような構えを取る。
「なっ――!?」
「ほぉ……」
シュウイの構えも異様なら、その剣の持ち方も異端であった。緩く下げられた右手こそ普通に剣の柄を握っているが、やや高めに構えられた左手は、剣の中程を逆手に握っている。握っても切れない鈍なのを、文字どおり〝逆手に取った〟らしい。
(……「真・十字の構え」か。シュウイ君はハーフソードの心得があるようだな……)
――ハーフソード。
中世ヨーロッパで鎧を着た相手と渡り合うために考案された、ロングソードの技法である。手で剣の中程を握う事で、ロングソードを恰も杖か棍棒のように扱うところに特徴がある。剣の中程を握る事で強力な打撃をも受け止める事ができ、また、剣を正確に操って、鎧の隙間に致命の突きを入れる事ができる。
そんな中世ヨーロッパの武術をどうしてシュウイが知っているのかというと、明治初年に横浜を訪れたドイツ人の船乗りから習った技が、歌枕流に代々伝えられているから……ではなく、祖父が本で見かけて興味を覚え、自得したものを蒐一に教えただけである。
さて、そんなハーフソードの技法であるが、必然的に接近戦を挑む事にはなるとは言え、〝頑丈なだけの鈍〟でモンスターの打撃を受け止め、急所に正確な突きを見舞うという点では、役立たずと軽んじられる事の多い「初心者の剣」に一番向いた闘い方かもしれない。
(まぁ……それに見合うだけの技倆あっての話だが……)
人を喰ったシュウイの構えに挑発されたのか、ドルトンは型どおりの斬撃を見舞う。――が、身を転じながら一歩踏み込んだシュウイはその打ち込みを軽く横へと受け流すと、剣の切っ先を軽くドルトンの喉元へ突き付けた。幾ら鈍と呼ばれようと、この体勢に持ち込まれれば関係は無い。一突きだけでドルトンは死に戻って終わりだろう。
「わっ――へ……?」
何が何だか解らないうちに喉元へ切っ先を突き付けられ、目を丸くして降参のジェスチャーを示すしか無い。
「――よし、今度は俺が!」
半ば茫然自失のドルトンに代わって、今度は「・払」ことドットがシュウイの前に立つ。ドルトンの敗戦から大振りは危険と判断したらしく、突きで勝負を挑む心算と見える。
だが……それを見たシュウイは構えを変える。ハーフソードの持ち方は同じながら、今度は剣を横にして前方やや低めに保持している。
(……今度は「第三の構え」か……シュウイ君も色々と知っているものだ……)
感心したように心中で呟くテムジンであるが、彼の本職は自衛官。SROでは鍛冶師を営んでいるが、職業柄か格技には詳しいようだ。
そんな師匠の感興を他所に、思い切った突きを放ったドットであったが、シュウイは上段に捌いた剣でこれを受け流すと、そのまま踏み込んで突きを放つ……寸前で止めた。ドルトンと同じ結末である。
余談ながらハーフソードの場合、突きを放つ時には必然的に半身となるため、急所を敵に晒す事が無い。この点も初心者には好都合だろう。
「まだやる?」
「いえ……もぅ……」
「充分です……」
各々一度だけの交戦であるが、格の違いは充分過ぎるほど理解できた。何度やっても結果は同じだろう。
「まぁ、こんな風にね、〝頑丈なだけの鈍〟にも、それなりの使い方というのはあるもんだよ」
「――解ったか? お前らの腕で武器を云々するのは十年早い」
「「はいっ!」」
〝腕が未熟なればこそ、武器に頼るという事もあるんじゃないか〟――と、内心で思ったシュウイであるが、余計な茶々を入れない程度には空気が読める。それに、自分の未熟を棚に上げて武器のせいにするのは、あまり褒められた事でもないし。




