第百二章 トンの町 8.テムジン工房~新弟子紹介~(その2)
他に使えそうな名前ぐらいあっただろうと言いたげなシュウイに、テムジンが――カチコチの弟子たちに代わって――事情を説明する。
それによると、ドットこと「・払」はこれを「どっとはらい」と読んでほしかったようだ。昔話を語り終わる時の決まり文句であるが、恐らくは民俗学に興味があるのだろう。
ただ……惜しむらくはプレイヤーにも住民にもその意を酌み取ってもらえなかったらしく、ただの「ドット」になったらしい。
もう一方の自称「ドルトン」の方は、更に身も蓋も無い事情であった。入力した名前が悉く弾かれたのに業を煮やして、運をランダム設定に任せたらしい。その結果選ばれたプレイヤーネームが「$p①G」という、パスワードか何かと間違っているのではないかと言いたくなるような代物であったという。
想定外の結果に驚愕したものの、既に登録は終わった後。何とかこれを発音できる名前に翻訳しなくては……と、悩んだ挙げ句に、〝$p①G〟→〝$〟+〝p1G〟→〝ドル〟+〝豚〟→〝ドル豚〟→〝ドルトン〟に落ち着いたらしい。
「面白い連中だろう?」
「……どっちかと言うと、気の毒な気もしますが……」
自分たちに好意的――もしくは同情的――と見て取ったのか、シュウイに対する恐れが少し薄まったらしい様子の新弟子たち。そして、そんな二人を横目で見ながら、テムジンに視線で問いかけるシュウイ。テムジンから――同じく視線で――返ってきた答えは〝否〟であった。どうやら新弟子二人には、まだ特殊鋼の事は明かしていないらしい。
ならば――とシュウイが取り出したのは、最近ふとした事――新人パーティにろくろ首と間違えられて討伐されそうになった――で手に入れた、初心者向けの剣であった。自分が持っていても使いどころの無い――使うと杖が不機嫌になる――ものだし、いずれナントにでも売っ払おうと思っていたのだが、テムジンなら何か面白い使い方ができるのではないか? 仮にできなくても、当たり障りの無い話題としては妥当だろう。
――と、思っていたシュウイであったが……どうも新弟子たちの様子がおかしい。少しは解けたかと見えた警戒心――と恐怖心――が、再び募ってきたようだ。
はてな――と内心で首を傾げていたシュウイであったが……怯えた弟子たちに何やら訊ねられていたテムジンが苦笑交じりに説明してくれたところでは、どうやらPKプレイを疑われていたらしい。明らかに新人の持ち物と思われる初心者の剣を、商売人でもないシュウイが複数持ち込んだ事で、その入手先を怪しんだ――という事のようだ。
二人の疑念は理解したものの、ここで入手の事情を――レアスキルを使っていたら妖怪と間違えられた――説明するわけにもいかずに苦労する羽目になった。ともあれテムジンの執り成しもあって、どうにか誤解を解く事に成功する。
斯くして、その場の話題は成り行きで「初心者の剣」の事になったのだが……
「使えないって、どういう事?」
「え? だって攻撃力は低いし、特殊効果も無いですし」
「そうそう。重さとかバランスは良いから使い易くはあるんだけど、素手で握っても切れないくらい鈍だし」
「耐久値が設定されてないから、壊れないだけが取り柄だよな」
「そうそう」
所謂「刃物」とは違って、触れるだけで切れたりしない――なので、ナイフの代わりには使えない――のは確かであるが、それはこの「剣」が〝叩き斬る〟、或いは〝叩き付ける〟使い方を想定しているからではないのか? 〝引き斬る〟という日本刀の使い方に馴染んでいない現代人には、寧ろこの方が使い易いのでは? 確かに切断の「効果」は付いていないが、剣の扱い方を身に着けるには充分だろう。刀剣の扱い方など知らぬであろう初心者に与えるものとしては、まずは妥当な性能ではなかろうか。ちゃんと切っ先は尖っているし、使い方によっては充分役に立つだろうに……
――という内心が顔に出ていたのか、
「……どうだろうシュウイ君、心得違いの弟子たちに、少し戦い方というものを教えてやってはもらえないだろうか?」




