第百二章 トンの町 7.テムジン工房~新弟子紹介~(その1)
未検証だった四つのスキルを無事チェックし終えて上機嫌なシュウイが、次に足を向けたのはテムジンの工房であった。テムジンの弟子たちは内弟子扱いで工房内に部屋を貰っていて、そこをログイン・ログアウト地点に設定しているから、待ち合わせ場所まで移動する手間が無い。直ぐに合流できるから――というのがテムジンの言い分であり、シュウイもこれに同意したのであった。
余談だが、テムジンの方は内弟子を取る事で工房が拡張でき、かつ親方としての経験値が入るそうである。
「やぁシュウイ君、今回は世話になるよ」
「こちらこそ、ご面倒をおかけするみたいで、申し訳ありません」
柔やか和やかにシュウイと挨拶を交わすテムジンであったが、その後にはやや緊張した様子のプレイヤーらしき若者が二人控えている。種族はどちらも人間のようだ。
「……そちらの方が?」
「あぁ。不肖の新弟子たちだ」
師匠に促された二人は、緊張――と言うか、腰が引けた様子――を隠そうともしない足取りで進み出た。……右手と右足が揃って前に出る、所謂「ナンバ歩き」になっているのはご愛敬だろう。
――二人が硬直しているのには理由がある。
このキャンプの話を聞かされた時にテムジンから、〝同行するシュウイ君には、間違っても生意気な態度を取らないように。その方が身のためだ〟――などと脅かされていたのである。のみならず、そのシュウイなる人物は、テムジンとは懇意の協力者であり、トンの町の住民とも親しくしている〝有力者(笑)〟であるらしい。これでは罷り間違っても、不興を買う事などできないではないか。
不安を覚えた二人は、キャンプ道具を買いに出るついでに、冒険者ギルドでそれとなく――註.本人視点――シュウイの評判を聞き込む挙に出たのであったが……その結果は、不安どころか恐怖を弥増すだけに終わった。
居合わせた地元の冒険者たちから、〝何があってもあの坊主とは敵対するな〟と忠告を受けた上で、シュウイが二度に亘ってやらかしたPVPの事を教えられたのであった。
結果として新弟子二人は、屠殺場にドナドナされていく家畜のような思いを抱きつつ、シュウイに挨拶しているという次第なのであった。
ちなみに、そんな危険人物と和やかに談笑している師匠のお株が爆上がりしたのはここだけの話である。
「……お二人だけですか? 以前にお邪魔した時には、もう何人かいたような憶えがありますけど」
「あぁ。あの時いた連中は、全員が鍛冶職志望ではなかったしね。刃物の手入れの仕方を憶えたいという程度の者も多かったし。鍛冶職になりたいと残っているのは、今のところこの二人だけだ」
そう言うと、テムジンは新人二人に視線を送る。さっさと自己紹介ぐらいして見せろ。
「……ド、『・払』です。『ドット』って呼ばれています」
「あ……『$p①G』です。『ドルトン』って呼んで下さい」
「……は?」
解読に困りそうなプレイヤーネームを名告られて面喰らったシュウイであったが、テムジンの解説によると、これはプレイヤー人口が増えたための弊害であるらしい。名告ろうとしていた名前が既に悉く使用されており、思案に迷った挙げ句に珍妙な名前を名告る者が、第二陣には少なくないのだという。
……そう言われれば、シュウイ当人にも思い当たる節がある。自分も最初は「シュウイチ」もしくは「シュウ」を名告ろうとして、できなかったのではなかったか。
「……事情というか動機は解りましたけど、なんでそういう名前に?」




