第百二章 トンの町 6.東のフィールド~【歌舞の心得】~
「え~と……確か、関係するスキルを取得したり、スキルのレベルを上げさせてやれば、心得スキルもレベルアップする……んだっけ?」
シュウイの場合【器用貧乏】というチートな補助スキルがあるが、こっちは取得に関する補正はかからない。なら、関係しそうなスキルを得られるように努力すればいいのだろうが……
「……歌と踊りって……あまり得意じゃない分野なんだけど……」
再び考え込んだシュウイであったが、
「……できそうなのは歌枕流の型の演武、他は【般若心経】と【デュエット】ぐらいかな。…【腹話術】は何か違うような気がするし」
他人の目と耳が無いのをこれ幸いと、【デュエット】を発動させてノリノリで歌ってみたのであるが……
「う~ん……【デュエット】はレベルアップしたけど……肝心の【歌舞の心得】は変化無しか……」
ならばと演武を試してみるが、こちらもやはり変化は無い。もっと本格的なダンスとかでないと駄目なのだろうか?
「……まさかと思うけど……歌と踊りをワンセットで実行しないと成長しない……とかじゃないだろうな?」
だとしたら万事休すである。アステアやエルヴィスじゃあるまいし、ミュージカルスターの真似などできるものか。
「……いや……心得系スキルのレベルアップぐらいで、そこまで難度の高い要求をするかな?」
これはあくまで一般人向けのゲームであって、そこまで高いパーソナルスキルは要求されない筈。……であるならば、一般人でも知っている歌、それも振り付けのあるもの……アイドルとかが歌って踊ってるアレだろうか? そっち方面には明るくないのだが。
「それ以外にとなると……幼稚園とかのお遊戯……?」
……これはこれでハードルが高そうな気がする。ピ○ポンパン体操とか?
悩んだシュウイが試みたのは、腕を大きく上げて始まるラ○オ体操であった。幸か不幸かあのかけ声を憶えていたので、そのとおりにやってみたのである。
その結果……
「うん……上がるには上がったね。……第一と第二で」
これで駄目なら阿波踊りくらいしか選択肢が無かったのだが……ともあれ目標は達成できた。
「じゃ、そろそろ帰ろうか。シル、お疲れ様」
そう言ってシルを労うと、シュウイはシルに【力場障壁】を解除させる。
――フィールドの真ん中で能天気に歌ったり踊ったりしていた子供。不可思議な障壁のせいで近寄れなかったが、今はその邪魔者も消え去った。後は一咬み一捻りして、美味しく戴くだけ……と、浅はかにも襲いかかってきたモンスターたちを、シルとマハラの掩護の下に、サクサク狩っていくシュウイなのであった。




