第百二章 トンの町 4.東のフィールド~裏技発見~
以前に南のフィールドでスキルチェックを行なった時、折悪しくそこに居合わせた新人プレイヤーに目撃されて酷い目に遭った。
その事を憶えていたシュウイは念には念を入れて、今回は東のフィールドにやって来ている。モンスターと遭遇する確率は高まるとは言え、殺せばお終いのモンスターの方が、プレイヤーよりも対処が楽なのだ。
それでもなるだけ人目を避け得る場所をと歩き廻っていたシュウイであったが、
「あ~……スファリの藪かぁ……服を着てれば問題無いんだけど、素肌に触れると切れるんだよね……」
スファリというのはススキに似た多年草で、葉の縁が鋭く、不用意に触れると肌を切り裂く。注意して扱えば問題無いのだが、逆に言えば注意して扱わないと余計な傷を負う事になる。
傷そのものもバッドステータスとして扱われるのだが、この草の厄介なところは、何もせずに傷口を放っておくと、低確率で敗血症を引き起こすところにある。故に、怪我を負った後で適切な処置を講ずるか、最初から藪を迂回する必要がある。
面倒だなぁと呟いたシュウイであったが、その時、天啓が舞い降りて来た。
――素肌が切れるという事は……これは立派な「斬撃攻撃」ではあるまいか?
「【優柔不断】! 発動っ!」
半ば――根拠の無い――確信を抱いて発動したスキル【優柔不断】であったが、これは見事に図に当たり、スファリの葉はシュウイに傷一つ付ける事無く弾かれていった。
のみならず、スファリによる「斬撃攻撃」(笑)を跳ね返したという事で、【優柔不断】のレベルアップまで達成できたのである。
ウハハと笑いが止まらないシュウイは、この場この時このタイミングとばかりにスファリの藪に突っ込んで行き、【優柔不断】のレベルアップに勤しむのであった。
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「ふぅ……最後の方は少し悪乗りしてた気もするけど……ともあれ、【優柔不断】のレベルアップにも成功したし、幸先が良いよね♪」
抑の話、朝早くからフィールドへ出たのは、これ偏に【歌舞の心得】と【モグラ叩き】の検証のためである。その本題に取りかかる前に【優柔不断】のレベルアップができたという事で、シュウイは甚くご機嫌であった。……実際には、宿で確認できなかった分をここで済ませたのに過ぎないのだが……この場でそれを指摘するのは野暮というものであろう。
ともあれ、ウキウキルンルンとスキップでもしそうな足どりで歩いていたシュウイであったが、その行く手を遮るものがあった。――とは言っても、ご大層な障害物が鎮座している訳ではない。何かと言えば蜘蛛の巣である。
たかが蜘蛛の巣と侮るなかれ。SROではこれが身体に纏わり付く事で、ほんの僅かではあるが敏捷値と器用値が低下するのである。バッドステータスとして体感できない程度ではあるのだが、払わない限りいつまでも付着してステータス値を下げる仕様になっている上、幾つもの巣が纏わり付いた場合、デバフの効果も累積する。ここの運営が好みそうなトラップ仕様である。
ついでに言っておくと、問題の蜘蛛はジョウラという種類であるが、別段モンスターという訳ではない。訳ではないが毒持ちではある。好戦的な性格ではないが、不用意に掴むと咬む事があり、その場合は中毒のバッドステータスが付く。
そういう事情から、SROでは蜘蛛の巣は、スファリの藪と同様に回避すべきものという認識であった。シュウイもその常識に従おうとしたのだが……ここで本日二度目の天啓が舞い降りてくる。
――行く手を遮っているという事は……これは立派な「障壁」ではあるまいか? ひょっとして、【メビウスの壁】の対象になるのでは? どう見ても、紙より厚いようには見えないし。
――シュウイは本日二度目の直感に従う事にした。
「【メビウスの壁】! 発動っ!」
どうせ失敗しても蜘蛛の巣一つ。付着したのを綺麗に落とせば問題無いという気安さで、そのまま蜘蛛の巣に特攻をかましたシュウイであったが……
「おぉう……通り抜けちゃったよ……」
振り返ってみれば、蜘蛛の巣はそのままの形で残っている。【メビウスの壁】は無事発動し、その効果を発揮してくれたようだ。懐のシルと肩の上のマハラも、何か奇妙に感じたのか、ついさっき通り抜けたばかりの蜘蛛の巣を眺めている。
「蜘蛛の巣はそのまま残ってるし……いや……?」
能く見ると、巣そのものには変化は無いが、巣の主たる蜘蛛は何かを感じとったようで、網の上を右往左往している。まぁ、〝感じとった〟も何も、自分より遙かに大きい人間が自分のいる巣に向かってきたのだ。危険を感じなかったらその方がおかしいだろう。
(……悪い事したかなぁ……)
そこはかとない罪悪感を感じたシュウイは、迷惑料としてモンスターの肉の細片を網にそっと置いてみた。巣の主たるジョウラは戸惑ったようだが、一応糸でグルグル巻きにしているから、受け取ってくれたのだろうと思う事にする。
以後、巣を通り抜けては迷惑料を置いていく事を繰り返しているうちに、【メビウスの壁】は目出度くレベルアップを達成したのであった。




