第百二章 トンの町 2.微睡みの欠片亭~【優柔不断】~
【優柔不断】の説明文には〝優柔不断になる〟としか書いてない。怪しさ爆発である。レアでありながら捨てられていたのも納得できるようなスキル名だ。SROでは、どんなスキルも一度は使わないと内容が確認できない仕様になっているため、危険を冒したくないプレイヤーは即行で捨てるだろう。
翻って【メビウスの壁】の方は……
「……説明文を読む限りだとチートスキルっぽいんだけど……それでも捨てられてるっていうのがなぁ……」
説明文のとおりであるなら、これは有用どころではないチートスキルだ。間違っても捨てられるようなスキルではない。にも拘わらずシュウイがこれを拾ったというのは、誰かに捨てられたという事……
「……あれ? このスキルって、スーファンの宿場町で拾ったんだっけ……?」
シュウイは未だ開放されていないスーファンの宿場に、【迷子】の暴発で飛ばされた事がある。その時に拾ったというのなら、これは〝捨てられた〟スキルではないのではないか? となると、評価の前提条件を変える必要がある。これは普通にチートスキルなのか?
「う~ん……けど、ここの運営が、そんな都合の好いスキルを作るかなぁ?」
その評価をシュウイに下された事にはもの申したい向きもあるだろうが、運営に対する評価としては強ち間違っていない。
だがしかし、シュウイにとってこれらのスキルを使うのは不可避の事なのだ。なら、ここでウダウダ言っているより確かめるのが建設的だろう。幸か不幸か、部屋の中で使っても問題の無いスキルのようだし。
「よしっ! 【優柔不断】、発動!」
思い切り良く【優柔不断】を発動させたシュウイであったが、その身に何の変化も起こらない。とは言え発動しているのは事実のようで、その証拠にヘルプを読む事ができた。
「え~と、何々……へぇ……これって、身体の弾力性を高めて、刃物で斬れないようにするスキルなんだ。……ふぅん……レベルが上がると斬撃だけじゃなく、打撃にも耐性を持つようになるのか……」
名前はともかくその実は有用なスキルのようだ。これは早速スキルのレベルを上げておきたい……と、いそいそとレベルアップに取りかかろうとしたシュウイであったが、ここで運営の仕込んだ罠に気がついた。
「……このスキルって……使わなくちゃ上達しないんだよね?」
シュウイは【器用貧乏】の後押しを受けられるとは言え、基本的に使わない限りレベルアップしないのがSROのスキルである。言い換えると、このスキルを育てようとすれば、積極的に斬撃攻撃を受ける必要がある。中々に度胸を試されるスキルであるし、抑斬撃攻撃を放つモンスターというのがまず少ない。現在までに確認されているのは、インビジブルマンティスくらいだろうか。姿を隠して不意打ちで致命の一撃を放つモンスターを相手にLv1スキルの練習……死に戻りを繰り返す未来しか見えない。
「そうすると……態と仲間の攻撃を受けるくらいだけど……あの運営の事だし、どうせこれにも対策がしてあるんだろうな。悪意の無い攻撃ではレベルアップしない――とか何とか」
自分で自分を傷付けるというのも、恐らくは斬撃攻撃とは見做されないだろう。それでも一応試してみるべきかと考えたシュウイであったが、ここで一つの事実に思い当たる。……自分は高レベルの【解体】持ちではなかったか?
万が一【解体】スキルが発動して、自分で自分を【解体】するような羽目になったら……
「……うん……打開策が見つかるまでは、これは封印だね」
後日βプレイヤーの幼馴染みに相談してみよう。そう思うとシュウイは、もう一つの曲者スキルに意識を向けた。壁抜けスキルを標榜している【メビウスの壁】である。




