第百一章 ファミリーレストラン「ファミリア」 2.近況報告(その2)
〝一筋縄ではいかない〟のは確かだろうが、その評価をシュウイとその友人たちに下されている事に対しては、運営側としてももの申したい部分があるかもしれない。
「ここは住人たちの視点で考えてみましょう。転職の云々は別として、私たちプレイヤー――彼ら言うところの異邦人――は、特定の町に腰を据える事はほぼ無く、どんどん先に進むのがセオリーになっているわよね?」
「……必然的に、住人との結び付きは弱くなる――か」
「何人かの例外はいるみたいだけどね」
トンの町にはシュウイの他に、テムジンやナントといったプレイヤーがトンの町に居座っている。そして、彼らが地元住民から、貴重な情報を得ているのもまた事実である。
「……定住とかは別としても、もう少し地元住民の目ってやつを、気にした方が良さそうだな」
「私たちの場合は、使役術士の先輩たちとの交流を深めるべきかしらね」
「丁度ウィルマさんたちと知り合えたもんね」
地元住民とのスタンスを考え直すべきと話が纏まったところで、蒐一が――一部の者にとって――本日最大の爆弾を投げ込む。
「へぇ、新人が一人増えたのかぁ」
「うん、瑞葉さんっていうんだって。何かマイナー職に就いたばっかりに、レベルが上げられなくて困ってるらしいから」
「あぁ、割と能く聞く話だよな。そう言や要の知り合いにもいたよな、園芸家志望のプレイヤーだっけ?」
「……そうね」
――そこまで事情を聞いていながら、どうして「瑞葉」と「園芸家志望のプレイヤー」が結び付かなかったのか……と訝る向きもあるであろうが、実はこれ、呆れるほどの偶然が連鎖した結果であった。
まず第一に、茜と要は瑞葉の知り合いであるがゆえに、彼女の対人恐怖症と、SRO内でそれを悪化させた原因――シュウイの凶行――の事を知っており、両者を引き合わせるのは時期尚早と判断していた。ゆえに、同じトンの町にいるシュウイに瑞葉の事が知られないよう、然り気無く気を配っていたのである。
第二に、件の「園芸家志望のプレイヤー」が要たちの知り合いと聞かされていた蒐一――と匠――は何となく、そのプレイヤーはナンの町にいるのだろうと思い込んでいた。まぁ、そう誤解させるように要が誘導したというのもあるが、ともあれこの段階で、「瑞葉」と「園芸家志望のプレイヤー」を結び付ける糸はプツリと切られた事になる。
第三に、エンジュとモックは瑞葉と知り合ってから彼女の事情を或る程度聞いており、園芸科志望だという事も知ってはいるが――シュウイにはそこまでの事情を明かしてはいない。個人情報に関わるので、自分たちの口からは言わない方が良いだろうと考えたためである。
そしてシュウイも同じような理由から、瑞葉の志望するジョブについて、深く訊ねる事をしなかった。「転職の儀」を受ける瑞葉に同行していながら、何に転職するのかを訊ねる事はしなかったのである。
マナーとしては褒められるべきであろうが、そのせいで事態が空回りを始めたのも事実である。
第四に、〝植物に詳しい〟という瑞葉のカミングアウトを聞いた時、シュウイはそれを〝植物採集に詳しい〟のだと、勝手に脳内で変換していた。これには心得スキルのセットを入手したばかりというシュウイの事情も影響しているかもしれない。採集だの採掘だのといった心得スキルを得たせいか、植物と言えば植物採集――と、思い込んでいたのである。
斯様な偶然の連鎖から、今この場にいる蒐一と匠は瑞葉の正体を掴みかねていたのであるが、勿論の事、関係者の一人である茜はそれに気付いている。ついでに、瑞葉の情報を黙っていた事で、自分と要が微妙な立場に置かれている事も。
どうするのかと――ややあからさまな――視線で問いかける茜を、にこやかな笑みで封殺すると、要は今後の対応策を検討し始めるのであった。




