第百一章 ファミリーレストラン「ファミリア」 1.近況報告(その1)
「んじゃ、結局レベルは上がんなかったのかよ?」
日曜日の昼下がり、ファミリーレストラン「ファミリア」で蒐一に問いを放ったのは幼馴染みの匠、その傍らには同じく幼馴染みの茜と要が控えている。既にお馴染みとなった面々の、お馴染みとなった光景である。
「ま、ね。クエストったってカマドウマを倒しただけだし、そうそうレベルは上がんないよ」
「……そのマッドカウマに苦労するのが、普通の冒険者なんだがな……」
「ピョンピョン跳ねるから、遠距離攻撃が当たりにくいだけじゃん。近接でぶん殴る分には関係無いし」
「マッドカウマの体液は装備を腐蝕させるから、普通のプレイヤーは敬遠するものなのよ、蒐君」
「幻獣のシールドなんて恩恵を蒙ってる蒐にゃ関係無い話だろうがな」
「シルの【力場障壁】に助けられてるのは否定しないけど、カマドウマの体液、杖を腐蝕させたりはしないみたいだよ? 木製品だと大丈夫なんじゃない?」
確かな経験に裏打ちされた事実を突き付けられて、思わず考え込む幼馴染みの三人。言われてみれば確かに、これまで木製の得物でマッドカウマと渡り合う――などという暴挙をやってのけた者はいなかったかもしれない。或る意味では重要な情報と言えよう。
しかし――である。
「……抑、マッドカウマの群れを相手に、棒っ切れで殴り合うような真似ができるかよ」
「少なくとも杖術か棒術か……その手のスキルを持っていないと難しいでしょうね」
「ねぇねぇ蒐君、蒐君の杖って特別じゃなかった?」
「あぁ……それもあったわね……」
「付喪神になりかけてるって話だったよな……」
SRO開始この方、ほぼそれ一本で数多のモンスターを屠ってきたシュウイの杖は、既に杖にあるまじき経験値を蓄えており、今や付喪神として目覚めつつある。その事実を無視するわけにはいかないだろう。
「……けど、腐蝕とかのバッドステータスは最初から受けなかったと思うけどな。もしそんな事があったら、杖を買い換えるとか新しい武器に変えるとか、してた筈だもん」
蒐一ことシュウイには杖だけでなく、投石紐やクロスボウといった遠距離攻撃の手段もある。杖での殴り合いが不都合であれば、早々にそっちに鞍替えしていた筈。それをしなかったという事は、杖での殴り合いに何の問題も無かったという事……成る程、これは蒐一の主張に理があるようだ。
「……だとしてもだ、アレと間近で殴り合えるヤツがどんだけいるんだよ?」
「キモいもんねぇ~」
「スキルとかステータス以前に、メンタリティの問題よね」
「……まぁともかく、スキルに変化は無かったよ」
攻撃の矛先が自分の為人に向いたと察した蒐一が、強引にこの話題にケリを付けた。幼馴染みたちも別に蒐一の糾弾が目的ではないため、あっさりとその方針に乗る事にする。検討すべき案件は他にあるのだ。
「ちょっと気になんのは、住人の冒険者があまり転職しないって話だよな」
「そうね。住人たちは私たちの転職を……いえ、私たちを『冒険者』としてどう評価しているのかしら」
住人の転職事情それ自体は、すぐに自分たちに関わってくるような事は無いだろうが、住人が自分たちをどう見ているか――これは案外に重要な話のような気がする。〝住人の冒険者が不思議がっていた〟とすると、これは運営が仕込んだ反応――言い換えると、何かのフラグか手懸かりの可能性があるのではないか。
「……冒険者ギルドに登録していれば『冒険者』なんだと思い込んでいたが……違うのか?」
「安易な思い込みは危険かもしれないわよ? ここの運営が相手だと」
「あぁ……それはあるかもな」
「ここの運営さん、一筋縄じゃいかないもんね~」
「だよね」




