第百章 トンの町 5.瑞葉の転職とその後の話
何かのフラグなのだろうかと考える三人。それとも運営が面倒臭くなって、プレイヤー向けの設定を流用しただけか? これはこれでありそうな気もする。
「……それも気になりますけど、住人の冒険者って、あまり転職しないんですか?」
寧ろこちらの方が重要ではないかという予感を得たらしく、モックがシュウイに問いかける。
「うん。こっちの冒険者だと、そこまで転職に拘らないみたい。プレイヤーが直ぐに転職するのを不思議がってたから」
「え……」
「そうなんですか?」
〝住人の冒険者が不思議がっていた〟とすると、これは運営が仕込んだ反応――言い換えると、何かのフラグか手懸かりの可能性がある。確認しておいた方が良いだろう。
「あ、うん。〝態々転職なんかしなくても、冒険者としてやっていけるのに〟――って言ってた。……飽くまで僕の想像だけど、プレイヤーと違って町を出ない……定住してる人が多いのも関係しているのかもね」
実は、シュウイが転職しないのに不審を持たれていないのも、そういう事情があったからなのだが……例によって当のシュウイは、その事には気付いていなかったりする。
「あぁ、それはあるかも……」
「トンの町の周りで冒険者として活動するだけなら、別に特別な職に就く必要はありませんものね」
だが、先の町へ進むと、この状況は変わってくるのかもしれない。それが何に関係してくるのかは判らないが、憶えておいて損は無いだろう――と、心に留める三人。……張本人のシュウイは気にしていないようだが。
ともあれ、そんな事を話しているうちに、一行は恙無くギルドへと戻った。
そこで瑞葉の「転職の儀」を見ようと意気込んでいたシュウイであったが、
「あ……『転職の儀』って個室でやるんだ……」
「まぁ……個人情報を扱う訳ですからねぇ……」
冒険者ギルドの一室で、職種に詳しい職員が解説のために付き添って行なうらしく、シュウイたちが見学する事はできなかった。ギルドの規則だそうである。
ちなみに、「園芸家」も「種苗農家」も――珍しいには違いないが――既知の職業ではあるそうで、瑞葉は支障無く情報を得る事ができている。
重畳々々と瑞葉を祝福していたところに、テムジンからのメールがシュウイに届く。日程の都合が付いたという報せであった。
早速に新人二人の都合を訊いて、キャンプの日程を決めようとしていたシュウイであったが……
「あの……キャンプに行かれるんですか?」
「あ、うん。エンジュの素材採集訓練も兼ねてね。瑞葉さんも来る?」
「いいんですか!?」
何の気無しに誘ったシュウイであったが、瑞葉にとっては千載一遇のチャンスである。【隠密】こそ持ってはいるが基本紙装甲の彼女の事、この機を逃せば郊外に出るチャンスなどいつ来るか……。引率者が「死の天使」だという事を考慮しても、見過ごすには惜しいチャンスである。彼女が食い付いたのも当然であった。
これでも植物には詳しいので、そっち方面でお役に立てると思う――という熱いアピールを受けたシュウイも驚きはしたが、能く考えれば確かに悪い話ではない。
考えてみれば今回のメンバーに、植物に詳しい者がいるかどうかは疑わしい。自分は無論、エンジュは宝石職人、モックは吟遊詩人を志望している。テムジンは自衛官という職業柄、少しは植物にも詳しいかもしれないが、SRO内での職業は鍛冶師である。殊更植物に詳しいとは思えない。これはテムジンの弟子という者も同様であろう。
ここに――自称とは言え――植物に詳しい人材を迎える事は、プラスにはなってもマイナスにはなるまい。それに、さきほど見せてもらった【隠密】の技倆に鑑みれば、足手纏いになる心配も無い……
――斯くして、シュウイ一行の採集キャンプに、瑞葉というイレギュラーが参加する事が確定したのであった。




