第百章 トンの町 2.運命の出会い 或いは 怪縁奇縁(その2)
……よもや自分の所業が原因で、瑞葉の対人恐怖症に拍車がかかっており、そこを慮った要が詳細を伏せていた――などという裏事情には思い当たらなかったシュウイは、さっくりとその問題をスルーした。今は目の前の彼女の問題を解決するよう動くべきだろう。
ついでに言っておくと、瑞葉・エンジュ・モックの誰一人として、シュウイがズートの苗木育成クエストを遂行中という事を知らなかったりする。なので、彼らの方からズートの件が話題になる事も無かったのであった。
ともあれ、シュウイの口から出た言葉は――
「えぇと……知り合いから話を聞いたところ、レベルアップのためには公益性の高いクエストを熟すのが手っ取り早いそうだから、それっぽい依頼を受けてみたんだけど……それに同行してもらっていいかな? あ、勿論、危ない目には遭わせないつもりだけど」
シュウイが配慮しているのは〝危ない目に遭わせない〟事であって、〝怖い目に遭わせない〟事ではない。
そこに気付いた新人二人はシュウイの後で微妙な表情を浮かべるが、背中に目の無いシュウイは気付かず、瑞葉にはそんなゆとりは無かった。
「は、はい! 宜しくお願いします!」
これで話は決まったが、新人二人には少しばかり納得できない事があった。
「……先輩、そんな〝公益性の高い依頼〟って、ありましたっけ?」
そんな美味しい依頼がギルドに掲示してあれば、新人冒険者たちが争って受注している筈だ。それがスンナリとこっちに廻って来るのも不思議だが、噂一つ聞かないのはなぜなのか?
「あぁ。これ、ギルドが仲介する依頼じゃなくって、僕が個人的に住人から受けた依頼だから」
「「「……はぁっ!?」」」
第二陣が参入するまで、ほとんどボッチに近いレベルでトンの町に居座っていたのがシュウイである。必然的に、プレイヤーよりも住人の知り合いの方が多くなっていた。
そんなシュウイは――住人の間で色々と名を売っていた事もあって――住人から直接に害獣討伐の依頼を受ける事が度々あった。
抑住人が冒険者ギルドに依頼を出すのは、誰が受けてくれるのかも、受けてくれるかどうかも定かでない依頼を出す場所として、ギルドが便利だからである。交渉相手の当てが最初からあるのならば、何もギルドを通す必要は無い。況して、しょっちゅう顔を合わせている人物がその相手となれば尚更だ。
今回シュウイが持ち出したのも、そんな依頼の一つであった。住人直々の依頼なのだから、公益性の点でも問題は無い筈だ。
――という説明をシュウイから聞いて、成る程と納得している三人。特にエンジュとモックの新人組は、なぜか安心の度を深めたようだ。その態度が気になった瑞葉がこっそり問い質したところ……
「切れ目無く陸続と襲いかかるモンスターの猛攻に曝され続けるよりは、数が有限だろう害獣退治の方が、まだ安心ですから」
――という、安心していいのかどうか判らない答が返って来て、瑞葉を困惑させる事になった。いや、二人は〝安心〟だと言っているのだが。
ともあれ、内心で不安を抱きつつ、瑞葉はシュウイの「害獣退治」に同行する事になったのである。




