第九十九章 篠ノ目学園高校 3.幼馴染みたちの報告(その2)
どこか残念そうに言う匠であったが、要はその理由を察していたようで、
「えぇ。だけど、今回のクエストの内容については話してあげられるわ。異邦人でも使役職になら教えても構わない――って、依頼主にも諒解を取ったから。……匠君自身は使役職じゃないけど、同じパーティの使役職に伝言を頼むという事で」
「お、いいのか?」
――と、あからさまに相好を崩す匠。βプレイヤーだけあって、攻略情報については貪欲なようだ。
「えぇ。だけど、『ワイルドフラワー』の残りのメンバーが使役獣を得た時にも同じクエストを出題されるかもしれないから、あまり広めないでほしいわね」
「あ~……それもそうか。解った、そう伝えとくわ」
匠と蒐一に向けて、今回のクエストの内容を具に報告してゆく要。ただ、抑蒐一や「マックス」が、同じクエストを受けられるのかどうかとなると……
「あ~……魔女の婆さんの特訓を受けてなきゃ駄目なのかもな……」
「魔女って……バーバラ先生はこの国の使役職の筆頭よ?」
「あ、悪い。悪口を言ったつもりじゃなかったんだが」
〝魔女の婆さん〟のどこが悪口でないというのか。膝詰め談判で問いつめてやりたい気もしたが、匠の口が悪いのも、その口が災いの元となっているのも、子供の時から承知しているので、とりあえずスルーを決め込む事にする。
ともあれ同じ使役職とは言っても、バーバラの特訓を受けていないプレイヤーが同じクエストを受注できるかどうかは、怪しいと言わざるを得ないだろう。
「けど、ま、そこにイビルドッグがいて、稀少な素材が得られるって事は確かなんだろ?」
「それは間違い無いけど……その〝素材〟というのが、また曲者みたいなのよね」
「――あ?」
「どういう事? 要ちゃん」
匠と蒐一の疑念に答えて、要が述べたところによると――
「使役職独特の素材?」
「えぇ。通常の魔術師や錬金術師は使わないらしいのよね。使役職が使役獣を強化する時か何かに使うらしくて」
――それは耳寄りな情報ではないのか?
「私たちにはまだ早いという事で、レシピは教えてもらえなかったのよ」
「あ~……クエに成功したら教えてもらえんのかな?」
「どうかしら。少なくとも、今回の報酬ではないような口振りだったのよね」
まだ道は遠いのか――とガッカリした表情を浮かべる男子二人……
「――いや、蒐はズートの葉で強化済みなんだろ?」
「けど、ズートの葉ももう手持ちは無いし。他に強化手段があるんなら知りたいじゃん?」
「まぁ……そりゃ解るけどよ……」
「ちなみに私と茜ちゃんは、今回のクエストでフラグを立てたような気がするのよね。いずれレシピも教えてもらえると思う」
「……ひけらかしやがって……持てる者どもめ……」
ジットリとした視線を向ける匠であったが、蒐一は別の事が気になっている風であった。
「ねぇ要ちゃん、結局イビルドッグはテイムできなかったの?」
「あぁ、それね。先輩たちに訊いてみたんだけど……イビルドッグのテイムには、何か条件が必要らしいのよね。で、私はその条件を満たしていないから、テイムできないって事みたい」
「あ……テイム自体は条件付きで可能なんだ」
「そうみたいよ。詳しくは教えてもらえなかったけど」
――イビルドッグのテイムに必要な条件の一つが【死霊術】の取得であるという事は、まだ知られてはいないのであった。




