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第九十八章 その頃の彼ら 3.運営管理室

 その頃――



「『コボルトのお守り』を特殊クリアーしたか……」



 運営管理室では微妙な(おも)()ちのスタッフたちがモニター画面に見入っていた。



「あれって結構特殊な条件が設定してあったよな。半ば冗談みたいなやつ」

「あぁ。コボルトと一言も話さず、村も訪れず、紹介もされず、コボルトの少年からは何の報酬も貰わない。それでいて、コボルトの少年からは感謝を受ける。……そういう七面倒な条件が設定してあった」

「まさか、それを(ことごと)く突破されるとはなぁ……」

「彼らにしても、狙ってやった事ではないようだが……」



 勿論、狙ってやった事ではない。

 「マックス」の面々にしてみれば、()(かつ)に声をかけると相手に逃げられる公算が大であると言う事で、なるべく相手を脅かさないようにと、(おお)真面目(まじめ)に知恵を絞った結果なのであった。……(はた)からどう見えるかは別として。


 彼ら「マックス」の失点にして運営管理室の想定外であったのは――



「まさか、声をかける事をここまで忌避するなんて、思ってもみなかったよなぁ……」

「あぁ、これは少し考え直した方が良いかもしれん」

「コボルトの方から声をかけさせる――とかか?」

「どうやってそんな状況に持ち込ませるつもりだ? コボルトの子供は、あそこにプレイヤーが隠れている事を知らないという設定なんだぞ?」

「その設定を見直す必要があるんだろうが……巧い手は思い付かんな」

「あそこまで徹底して秘密行動をとるとは思わなかったからなぁ……」



 そう。運営側の想定としては、プレイヤーはお守りの事を下の村で訊き込むだろうとなっていたのである。あの時点で(くだん)のお守りがコボルトのものだと看破されるなど、運営側のだれ一人として想像もしていなかった。



「写真にしても、まさかあんな風に使われるとは思ってなかったな」

「元々NPCとの交流を念頭に置いて実装されたんだろ? 使い方としては、間違ってないんじゃないか?」

「あのコボルトは、写真を確認する余裕は無かったようだがな……」



 タクマたちが用意したプラカードには、お守りとシュウイの写真が貼られていたのだが……実はこの「写真」、プレイヤーからの指摘を受けて、住民(NPC)との交流用にと実装されたものであった。

 プレイヤー同士ならスクリーンショットを送り付ける事もできるが、NPCとの交流を標榜するなら、プリントアウトできる方が都合が好いとの指摘がプレイヤーから上がってきたのである。



「まぁ、コボルトとの交流に、よもや『スキルコレクター』の写真を持ち出すとは思わなかったが」

「今回のアレコレも、元を辿(たど)れば原因となっているのは『スキルコレクター』なんだが……」

「まさか【鑑定EX】なんてスキルを入手するとは思わなかったからなぁ……」

「あぁ。お蔭であのお守りがコボルトのものだという、こっちとしては隠しておきたかった情報が知れてしまった」

「隠し果樹園だという事に気付かれたのも、少し想定外だったな」

「あぁ。少々プレイヤーたちを甘く見過ぎていたかもしれん。まぁ、彼らがβプレイヤーだという事もあるのかもしれんが」



 運営側が本来想定していた標準的なルートは、プレイヤーが村でお守りの事を訊き込むと、それが偶々(たまたま)村を訪れていたコボルトの狩人の耳に入って、それが切っ掛けでコボルトたちと接触を持つようになる――というものであった。このルートでは、お守りを落とした少年コボルトとは、後日引き合わせてもらえる展開となる。

 少年コボルトと先に出会うルートも準備してあったのだが……



「そっちは単に、逃げるコボルトの跡を只管(ひたすら)追いかけて話しかけ、それが延々と続いた後に誤解が解けて……という展開になる予定だったからなぁ……」

「彼らにしてみれば、コボルトたちが秘密裡にヴォークの栽培をしている事について、最大限に忖度(そんたく)した結果なんだろうな」

「お蔭で、コボルトたちには知られないまま、一人の少年コボルトとだけ友誼を結ぶという結果になった訳だが……」



 今後の展開の予想が付かず、複雑な表情を禁じえないスタッフたちなのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 態々他人、しかも他種族の懐具合に手を突っ込む日本人は居ません(逆説的にその忖度が出来ない奴は……
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