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第九十七章 トンの町 8.微睡みの欠片亭(その1)

 (じょう)宿(やど)にしている「微睡(まどろ)みの欠片(かけら)亭」の自室に引き取ったシュウイは、シルとマハラに食餌を与えると、メールボックスを確認した。教会での作業中にメールの着信には気付いていたが、確認するゆとりが無かったのである。



「あ、ナントさんからか。……へぇ……ナントさん、態々(わざわざ)知り合いの人に聞いてくれたんだ……」



 ナントから送られて来たメールには、タコ平から聴き取った内容が要領良く(まとめ)めてあった。お蔭でシュウイは最も知りたかった事――サブジョブに廻した「遊び人」が暴発するかどうか――の答えを知る事ができた。



「あぁ、控えに廻している限り大丈夫なんだ。運営側の確約かぁ……なら、心配する事は無いよね」



 最大の懸念事にけりが付いた事で、安心して恒例のステータスチェックに移る。



「貰った称号の事も気になるけど……やっぱり最初は【日曜大工】だよね。あんだけトントンギコギコやったんだから、さぞやレベルが上がって……って……嘘だろ……Lv1に下がって……え?」



 茫然自失から困惑へと表情を変えたシュウイの視線の先にあるのは、



「【日()大工】……って、何だよ……」



 訳が解らず過去ログをチェックしたところ、事案が発生したのは(あん)(じょう)、教会での補修作業の時だった。補修した数が多いため、Lv3だった【日曜大工】が一気にLv5に上がり、勢い余って【日()大工】に進化したらしい。



「……てか……スキルってLv5で進化するもんなの? 僕のスキル、Lv5以上のものが幾つもあるんだけど? ……【スキルコレクター】が何かしたのかな?」



 困惑と猜疑の念に囚われるシュウイであったが……実はこれ、【日曜大工】の元々の仕様であったりする。運営も単なる【日曜大工】では旨味も面白味も無いと思ったのか、このスキルに関してはLv5で進化するように仕組んでいた。それが今まで判っていなかったのは、単に【日曜大工】をそこまで育てた者がいなかっただけである。

 元々【日曜大工】は、汎用性が高い反面で間に合わせ的な性格が強いスキルであり、普通のプレイをしていれば、使う機会もそれほど無い。ゆえに成長する事もほとんど無い。職人を志望するプレイヤーはと言えば、こちらは最初から【木工】など本格的なスキルを取る。仮に木工職のプレイヤーが【日曜大工】を拾ったとしても、経験値は【木工】など本格的なスキルの方に優先して廻され、間に合わせ的な【日曜大工】には入ってこない。結果、役に立たない成長しないとして捨てられる事になるのであった。

 ちなみに、【日用大工】の更に先には【非日常大工】があったりするのだが、それはシュウイの知らぬところである。

 


「う~ん……〝大工〟って言う割に、木工・金工を問わず日用品なら何でも作れるのかぁ。汎用性の高いスキルだなぁ……って、木工と金工の両方を育てなくちゃレベルアップしないのかよ。相変わらずの罠仕様だなぁ……」



 嘆息するシュウイであったが……実はこのスキル、Lv1では木工と金工だけだが、Lvが上がるにつれて他のクラフトスキルも追加されるため、愈々(いよいよ)成長は遅くなるという、悪意に満ちた仕様になっている。(もっと)も、シュウイには【器用貧乏】の恩恵があるため、比較的早く成長させられる見込みだが。



「……まぁともかく、キャンプ前に進化したのは、好いタイミングだったのかな? けどなぁ、何を作ったらいいのか……」



 宿屋住まいのシュウイとしては、家具とか作っても、使いどころも置きどころも無い。

野営の時に使う道具という手もあるが……できればその手の道具は信頼の置ける既製品の方が良い気がする。



「……って、それ以前にテントとかの作り方なんか知らないよね」



 消去法で武器・防具という事になるのだが……



「武器スキル持ってないからなぁ、僕。……いっそ自前の歌枕(かつらぎ)流に頼るか。SRO(スロウ)がフォローしてない武器とかもあったし……」



 シュウイと言うか(しゅう)(いち)の祖父が伝承している歌枕(かつらぎ)流は、元は葛城(かつらぎ)山の修験者が身を守るために編み出した武術である。修験者必携の金剛杖の他に、身近にあるものを何でも使って闘った事に由来する、琉球古武術や暗器術のような技法が特徴である。体術・杖術を基本とし、鎌・分銅鎖・剣鉈・飛礫・寸鉄・数珠・鉄扇・十手などの短兵器を伝承している。



「分銅鎖はテムジンさんに造ってもらったし……僕が作るとすれば鎌くらいかな?」



 インビジブルマンティスの捕獲肢から鎌を作ると、不可視効果が付くのだろうか……などと、不穏当な事を考えるシュウイ。しかし、そんなものがあるんなら、とっくに報告されている筈だと思い直す。

 実は、インビジブルマンティスの不可視効果は捕獲肢ではなく、翅の方にあるのであったが、それは未だに明らかになっていない。ドロップ品としては滅多に落ちない上に、それも【解体】持ちでないと手に入らないという珍品であるため、素材として利用された事が無いようだ。


 ただしこの時、シュウイの意識はインビジブルマンティスの素材ではなく、武器としての鎌の方に向いていた。



「鎌かぁ……今の僕のラインナップだと、杖より近い間合いの近接武器が足りないんだよね。ナントさんやケインさんには、危ないから接近戦など挑むなと言われたけど……手札くらいは持っておきたいよね」



 一応バグ・ナクと万力鎖はあるのだが、



「あれはあくまで対人戦用で、モンスター相手には多分向かないよね」



 しかしモンスターの素材なら、モンスター相手にも通用する理屈ではないか? それを考えると、インビジブルマンティスの鎌というのは、悪くない選択肢のように思える。ただし問題は……


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[一言] 数珠!? どう戦うんだ...?
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