第十三章 乗合馬車の旅 2.メイとニア
テムジンさんの話につられたのか、メイとニアも自分たちの悩みを話し出した。彼女たちはモフモフした動物との触れ合いを目的にこのゲームを始めたらしい。ちなみに、メイはペット禁止のマンション住まい、ニアは猫の毛アレルギーで、共にモフモフとは無縁の日々を鬱々と送っていたらしい。
「それはまた何というか……」
「結構切実だったんだね……」
「だから、モフモフとの触れ合いは、私たちにとって至上命題「なの!」」
「で、一番触れ合えそうなスキルを取ったと」
「何も問題は無いように思えるが?」
「このゲーム、思ったよりモフモフが少ないんです」
「そうなの?」
僕はスキルの問題があって、町の外には出てないからね。よく判らない。
「そうなの!」
「例えば、私の召喚リストに載ってるのだと、ホーンドラビット、プレーリーウルフ、スライム、トラップスパイダー、マーチングアント、ファイアリザードといったところ」
「クモって結構柔らかな体毛を持ってなかった?」
「虫は駄目!」
クモは虫じゃない……って言っても関係ないんだろうな。
「それに、トラップスパイダーは身体が大きいせいか、モンスターだからなのか、モフモフというより剛毛とか棘とかの範疇なのよ……」
あ~……納得だ。
「付け加えると、トラップスパイダーは待ち伏せ型のモンスターだ。従魔にするには向いてないかもしれないな」
「あ~、それもありましたね」
「トンの町外れではホーンドラビットとプレーリーウルフを見ただけなので、ナンの町に行ってみたんですけど」
「虫とトカゲしかいなかった!」
「あとはスライムね」
「コボルトやホブゴブリンもいたらしいですけどね」
「いや……自分はよく判らないが……さすがにゴブリンは無いんじゃないか?」
「でも、器用そうですよ?」
「それは……そうかもしれんが……う~む……」
「器用でも駄目!」
「ご免なさい、私もちょっと……」
不憫だな、ゴブリン一族。
「じゃあ、選択肢はホーンドラビットとプレーリーウルフだけ? 悩む余地もないんじゃ?」
「だけど……プレーリーウルフはともかく、ホーンドラビットは戦力的に微妙だし……この先お荷物扱いするようになったら可哀想な気もするし……」
うん、ニアってば勘違いしてないかな?
「二人ともウルフにすればいいのに」
「え? ……でも」
「違う種類の従魔を揃えて戦術の幅を広げたいっていうのは解るけど、ウルフって連携しての闘いができるじゃない。他の従魔候補にはできない闘い方だと思うんだけど?」
「……なるほど。確かにシュウイ君の言うとおりだ。ウルフが二頭なら、戦術的な選択肢は寧ろ広がるだろうな」
僕とテムジンさんがそう言うと、ニアとメイは互いに顔を見合わせていたが、やがてこちらを向いて言った。
「それでも、やっぱり問題があるの」
「お願いっ! 手伝って!」
へ?
「……つまり、自分たちだけではプレーリーウルフの群れを倒せそうにないから、シュウイ君に手伝って欲しいという訳だね?」
あ~……どうしたもんかな。
「自分が手助けできれば良いんだが、生憎急ぎの仕事を抱えていてね」
テムジンさんもさっきから横目で僕の方をチラ見してくるし……
「……解ったよ。手伝うけど、上手くいかなくても怒んないでよ?」
「もちろんよ、ありがとう」
「やった~!」
まぁ、多分僕にも有益な体験だろうし……シルはこっそり隠れててね?
「でもさ、狩るのはウルフでいいの? 他にも良い従魔候補がいるかもしれないよ?」
「もしいたらその時考えるけど……例えばどんな?」
「ネズミとか小鳥だと偵察に役立つんじゃない?」
「ネズミさん?」
「偵察?」
「いや、専門家の立場から言わせてもらうと、偵察は重要だぞ? 偵察の有無で任務の成否が決まると言っても過言ではない」
「ほら。専門家もこう言ってるよ?」
「う~ん……その時になってから決めるわ」
そんな話をしているうちに、乗合馬車はトンの町に着いた。




