第九十七章 トンの町 7.テムジン~降って湧いた好機~
その夕べ、テムジンはシュウイからのフレンドチャットを受けていた。
後日弟子たちが証言したところによると、それはそれは悪い笑顔を浮かべていたという。
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「採掘キャンプ?」
『はい。ウチの新人――あ、宝石職人なんですけど、そのレベルアップが目的です。子供たちの証言によると、川上で〝綺麗な石〟が採れるそうなんですよ』
「ほぉ……〝綺麗な石〟ね……」
『えぇ。うろ覚えなんですけど、サファイアだかルビーだかって、含まれる微量元素で色が違うんじゃなかったですか?』
「……特殊鋼に添加する、微量元素の確保が狙いな訳だね?」
『ご名答です』
成る程――とテムジンは得心する。
恐らくはシュウイの言うとおり、宝石の原石が採掘できる場所なのだろう。そして、ここの運営の事だ、原石に含まれる不純物として、こっそり稀少金属か希土類元素を用意しておく――ぐらいの嫌がらせはやりかねない。
仮にそうでないとしても、キャンプだけでもこちらには益がある。
「その話、乗せてもらおう」
『あ、お願いできますか?』
「あぁ。こっちとしても願ったりだ。……弟子どもが最近図に乗っているのでね」
『はぁ?』
テムジンは現状二人の新人プレイヤーを弟子としているが、その彼らが最近〝鍛冶場に籠もってばかりは嫌だ〟と言い出したのである。
本来なら初心者向けの鉱山で採掘作業などするのだろうが、一般に〝純度の低い鉱石しか採れない低質鉱山〟と評されている西の鉱山が、実は稀少金属や希土類元素を得るのに最適な場所という事実を知っているテムジンからすれば、折角の微量元素を〝低品質鉱石の精錬〟などで失うのを看過する訳にはいかない。なので何だかんだと理屈を付けて、弟子たちの採掘行を阻止していたのだが、それもそろそろ限界に近付いていた。どのみち一~二回は採掘を経験させねばならないだろうし……
「新人同士のパーティで何度か狩りをしたらしく、モンスターを舐めている節があるのでね」
『ははぁ……それはよくないですねぇ』
数多のモンスターを血祭りに上げてきたシュウイであるが、モンスターを甘く見た事は一度も無い。リアルでは熊どころか野犬を斃すのすら難しい事を知っている――詳しい事情については追及しないように――シュウイこと巧力蒐一としては、どんなモンスターであろうと侮るつもりはさらさら無い。そんな癖が付いたりしたら、田舎の祖父からどんな目に遭わされるか……
ともあれそういうシュウイとしては、モンスターを侮るようなプレイヤーが食い殺されても自業自得としか思えないのだが、テムジンの弟子となるとそうもいくまい。少しはアドバイスをした方がいいのだろうかと考え込む。
そして、テムジンはテムジンで――
(……よし。シュウイ君が同行してくれるのなら、弟子どもに絶対強者の戦い振りというものを見せてやれる。天狗の鼻をへし折るには丁度好い)
――などと内心で北叟笑んでいるのであった。
「どうせなら、私も弓を使ってみたいしね」
『あ、スキル得られたんですね?』
「お蔭様でね」
SROにおける弓は不遇武器との下馬評を聞いて弓の修得を断念していたテムジンであったが、シュウイから住人の弓術教官を紹介された事で、無事に【弓術】スキルを得ていた。実戦で使う機会が巡って来なかったのだが、今回のキャンプは好い機会だ。
「まぁ、一応は弟子たちにも説明しなくてはならないから、明日にでもというのは無理だが……後で連絡するよ」
『解りました。好いお返事を期待していますね』




