第九十七章 トンの町 5.エンジュ~降って湧いた試煉~(その2)
成る程。掲示板でも冒険者ギルドでも情報を得る事はできなかったが、そういった情報取得ルートがあったのか――と、納得する新人二人。住人との交流を推奨しているSROなら、当然考えて然るべきルートであった。
「で、さ。どうせ町の外に出るんなら、ついでに野営とかの訓練もしておこうかなって思って。ほら、どうせモックのクエストの件で、どこだかには行かなきゃなんないし」
「あぁ……『技芸神への奉納』クエストですか。技芸神の聖地を訪れて、歌を奉納しろっていう」
「うん、それ」
新人二人を引き連れて、どこにあるかも定かでない「技芸神の聖地」とやらを訪ねなくてはならないのだ。確かに野営の訓練ぐらい、しておいた方がいいだろう。
「僕も野営の経験はあまり無いしさ」
――おぃ待て。
「……聞き逃せない台詞を耳にした気がしましたが?」
「だ、大丈夫なんですか?」
「そっちは少し考えてる事があるから。最悪でも、経験者から充分なノウハウとかを聞いておくよ」
無論、シュウイの〝考えている事〟というのは、貰ったばかりの【野営の心得】スキルの事である。まぁ、それ以外にも腹案はあるのだが。
「はぁ……」
「まぁ、それなら……」
どうせプレイヤーの大半は、旅も野営も出たとこ勝負でやっているのだ。自分たちにだってできない事は無いだろう。そう判断した新人二人が――やや腰が引けた様子ながらも――同意する。
「まぁ今のところは、近いうちにキャンプをやるって事ぐらいで。詳しい内容とかを詰めたら、改めて相談するから」
「「解りました」」
「うん、お願いね」
――と、一見円く収まった感があるが、これで温和しく引き下がるほど、エンジュもモックも初心ではない。これまで伊達にシュウイと付き合ってきた訳ではないのだ。
成る程、説明だけ聞いた限りでは、割とまともな提案に思える……が、
「場所はどこなんです?」
声音に僅かな疑いを滲ませつつ、問い返したのはモックであった。
「うん? 町外れの小川だよ? 行った事、無かったっけ?」
「ありませんけど……小川のどの辺りなんですか?」
「さぁ……詳しい場所までは訊かなかったけど、上流の方が良いものが採れるって言ってたから」
「上流へ行くんですね?」
「そのつもりだけど?」
しれっとした顔で答えるシュウイを見て、エンジュとモックの両名は顔を見合わせる。あれは何か隠している時の顔、誤魔化そうとしている時の顔だ。
「……その子は上流のどの辺りで石を拾ったんです?」
「……う~んと……上流には行ってないそうなんだよね。でも、川の中に原石らしいものがあるんなら、産地は上流にあると考えるのが普通じゃない?」
それには同意する。しかし、二人が訊きたいのはそこではなく――
「その子、どうして上流には行かなかったんです?」
「えーと……親が煩いって言ってたかな?」
「ほぉほぉ……つまり、親から近付くのを禁じられている場所だと?」
「う~んと……そういう事になるかな?」




