第九十七章 トンの町 2.掃除を終えて
作業の主体は【日曜大工】を持つシュウイであるが、新人二人もその補助として大いに働いた。シュウイが修繕し終えた椅子を片付けたり並べ直したり、補修前の椅子を運んで来たりしてくれたお蔭で、シュウイも滞り無く作業を続ける事ができたのである。
その甲斐あってか、てんこ盛りあったように見えた椅子の山が片付いた頃には、
「うわぁ……『綺麗好きの信徒』って称号が生えてます……」
「あたしも……」
「えーと……僕にも生えてるね」
これがクエストの報酬なのかと思ったシュウイであるが、
「いえ、クエスト終了のお知らせがまだ来ていませんから、報酬とはまた違うと思います」
「え? これとは別に報酬が貰えるって事?」
「多分――ですけど」
それは、一つで二度美味しいクエストではないかと喜びかけたシュウイであったが、待て暫し。
「あ……けど、称号って微妙なものが多いんだっけ……」
ついこの間、必要に駆られて称号掲示板を覗き、書き込んだばかりである。あの時はネタ系称号の話ばかりが書き込まれていた。……まぁ、直ぐに自分が持ち込んだ新ネタ――『深淵の胃袋』と『ヤマタノヲロチ』称号を揃えると、「遊び人」に転職させられる――で盛り上がっていたが。
「あ、いえ。確かにそういう称号も多いですけど、信仰系の称号は少し違うんです」
「違うの?」
「はい」
――SROにおける称号には、少し厄介な側面がある。
ほとんど効果を発揮しないネタ系称号の事は措くとして、取得者にメリットをもたらす称号の場合も、長期的には厄介物となる可能性があるのであった。
「???」
「だから……称号に導かれるように展開が進んで行くと、偏ったスキルを拾ってしまう事があるんですよ。そうすると、スキル構成は転職に影響しますから――」
「あ……望まない職に転職させられる危険があるんだ」
「そうなんです。特に、称号の場合は簡単に捨てる事もできませんから――」
「転職前に称号を拾うのは要注意なんです」
その最たる事態――強制的に「遊び人」ジョブを得た――を経験したばかりのシュウイとしては、物凄く納得できる話であったが……
「え……だったら二人は拙いじゃん。……クエに誘ったのって、失敗だった?」
迂闊な所業で二人の志望を駄目にしたかと焦るシュウイであったが、
「あ、いえ。だから、信仰系の称号は大丈夫なんです」
「効果は弱いですけど、その反面で所持していてもスキルや称号の取得に影響しませんから、就職や転職の邪魔にはならないんです」
「あ……そうなんだ……」
あからさまに胸を撫で下ろしたシュウイであったが、新人二人ですら知っているような事を、仮にも指導役たる自分が知らないというのはどうなのか。ヤサグレてばかりいないで、少しはSROの事を勉強した方が良いかもしれない……
そう凹んでいるシュウイの傍らで……
(「……シュウイ先輩の木工技術、凄かったよね……。【掃除】と【日曜大工】だっけ?」)
(「尻上がりに調子を上げていましたから、作業中にレベルアップしたんでしょうね」)
(「【掃除】とか【日曜大工】のスキルって、この手のクエストには必須だよね……」)
(「と言うか、寧ろシュウイ先輩がスキルを持っていたから、こういうクエストが降ってきたんじゃないでしょうか」)
(「あ、そっか。そういう考えもありだよね」)
(「教会関係のクエストだと、受注者の不利益になるスキルや称号は生えませんし」)
(「シュウイ先輩様々だよね♪」)
――と、シュウイに対する敬意と驚異と感謝の念を深めていったのであった。
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ちなみに、クエストの報酬は『伝道者の祝福』という称号であった。これは教会から便宜を図ってもらえる確率が少し上がるというありがたいもので、一同うち揃って感謝したのであった。




