第九十七章 トンの町 1.教会の模様替え
その日SROにログインしたシュウイは、シルとマハラの食事を済ませてから冒険者ギルドに顔を出した。情報の収集・確認という意味もあるが、一番の理由はそこで新人二人と待ち合わせていたからである。
それというのも、昨日引き受けた教会の模様替えクエストが、
〝シスター・マチルダに確認してみたけど、基本的には椅子の具合をチェックして、壊れかけの椅子があれば修繕してほしいみたいだね。ただ……〟
〝ただ?〟
〝僕もあそこの教会は知ってるけど……多分、結構な数になると思うんだよね。古くなった椅子は階段の脇にも並べていたし……それとの交換や補修も考えると……〟
〝あ~……ありましたねぇ……〟
以前に教会の修繕依頼を引き受けた時にも、鐘楼への階段の脇に積まれた椅子やら何やらが傾れ落ちて、扉を封鎖していた事があった。積んであった椅子は何れも古いものであったが、古いなりに造りはしっかりしていた。
教会の意向としては、新品に買い替える余裕が無いので、鐘楼への階段に仕舞い込んでいた古い椅子と共食いさせて修繕してほしいという事のようであった。
その判断に異を唱えるつもりは無いが……仕舞い込んでいた椅子との交換や共食い補修まで念頭に置くとなると、チェックすべき椅子の数は倍増する。
それを独りだけで済ませるのは面倒と感じたシュウイが、後輩二人を動員する可否をギルド職員に訊ねたところ、問題無いとの返事を貰ったので、モックとエンジュに声をかけたのであった。
ちなみに二人の言に拠れば、シュウイからの提案があった時点で、それぞれの前にクエストへの参加・不参加を問うウィンドウが現れたそうである。
――《クエスト「教会の模様替え」に参加しますか? Y/N》――
両名が躊躇無くYを押した事で、新人二人もこのクエストに参加する運びとなり、冒険者ギルドで待ち合わせている……というのがここまでの経緯なのであった。
・・・・・・・・
「あらあら、大変な仕事をお願いしてごめんなさいね」
「いえ……それはいいんですが……」
そう言うとシュウイは改めて椅子の山に目を遣った。
「……以前こちらにお邪魔した時より、椅子の数が増えてませんか?」
「あらあら、そうかしら? 奥に仕舞い込んでいたのも引っ張り出してきたから」
「はぁ……」
実はこのクエスト、受注人数によって椅子の数が増減する仕様であった。
シュウイ一人が引き受けたのならここまでの数はなかったのだが、なまじ後輩二人を巻き込んだばかりに、処理すべき椅子の数が一気に三倍になったのである。ゲームのボス戦などでは時折見られる仕様であったが、今回討伐すべきは椅子という事らしい。
微妙に割り切れない思いを抱いたシュウイであったが、引き受けた以上はやるべき事をやるしか無い。徐に作業に取りかかろうとしたのであるが……
「この椅子、汚れが酷いんですけど……」
「無駄に凝った仕様ですねぇ……」
製作者の拘りか嫌がらせか、ご丁寧にも椅子に着いた埃や汚れまでもが、きっちりと再現されていたのである。
「先に拭くかどうかしないと駄目だね、これ」
「これ……全部ですか?」
こんもりとした小山を成している椅子を見て、心萎えたように呟くエンジュ。
「えーと……そっちは僕がやるよ。使えそうなスキルも持ってるし」
「スキル?」
「うん。【掃除】っていうの。知ってる?」
「聞いた事があるような……」
「打って付けのスキルですねぇ……狙ってました?」
「まさか。ここまで汚れてるなんて思わなかったよ」
ともあれ、シュウイはスキルを使って手早く椅子を拭っていく。何しろ椅子の数が数なので、【掃除】スキルも順調に成長しているらしく、拭いていくにつれて作業が最適化されて楽になる。もはや鼻歌交じりで作業しているシュウイの傍らで、新人二人は椅子の傷み具合を確認して、補修が必要なものとそうでないものに分けていく。
下拵えが粗方終わったところで、
「じゃ、本命の修理に取りかかろうか」
「結構な数あるみたいですけど……」
「数は多いけど、大半は少しガタがきてる程度でしたよ?」
並べられた椅子の列に意気阻喪しがちなエンジュに対して、傷みの内容を確り把握していたらしきモックが発破をかける。一見すると心温まる光景であるが、ここで一人が戦線離脱するかしないかの違いは労力的にも大きいので、脅してでも賺してでも参加させたいという本音もあるのだろう。
「多分、大丈夫だよ。こんなクエストに一日以上かかる筈が無いじゃん?」
「まぁ……そう言われれば……」
それでも、身も蓋も無いシュウイの指摘には頷かざるを得なかったとみえて、胆を括ったらしきエンジュも作業に参加したのであった。




