第九十六章 運営管理室 1.紛糾、詫びの品案件
済ませるべき事を済ませてから心置きなくSROにログインしようとした蒐一であったが、運営からメールが来ている事に気が付いた。
何だろうと訝しんでメールを開いたところが……
「へぇ……ステータス画面の幸運値に称号の効果が反映されていなかった……あれか。運営から貰った『神に見込まれし者』称号か……」
恐らくは突発的に作ったであろうため、細かいところに不備が出ていたらしい。
「ま、幸運値そのものに不備があった訳じゃないし、僕は気にしないんだけどね。……抑、気付きもしなかったし……」
されど運営の方は気にしたらしく、謝罪の標が送られてきていた。
「何だろう……わ♪ スキルだ♪」
蒐一が、いやシュウイが欲して已まないノンレアスキルが贈られてきたとあって、思わず蒐一の頬が緩む。特に不利益も無かった事とて、ありがたくお詫びのスキルを頂戴したのであった。
――と、この件はそれで円く収まったのであるが……ここに落ち着くまでには運営管理室で少なからぬ葛藤があったのである。
・・・・・・・・
「……こちらの不手際でユーザーに迷惑をかけたのは事実だ。謝罪すべきなのは当然だし、謝罪の標が必要なのもやはり当然だろう」
「それに異を唱えるつもりは無い。問題は――何を贈るかだろう」
シュウイに実害は無かったようだが、こちらの落ち度で不正確なステータス情報を提供していたのだ。運営としての能力と責任を問われかねない大失態であり、謝罪の標を贈る事に異議を呈する者は一人もいない。ただし問題は……何を贈るべきかという事である。
「……こういう場合のお詫びは、道具・スキル・加護・素材などと相場が決まっているんだが……」
「彼の場合、そのどれを贈っても物議を醸すから、ここでこうして雁首揃えて唸ってるんだろうが」
――そう。問題なのは贈る物でも贈る者でもなく、贈られる者にあった。
「定番なのはスキルなんだろうが……」
「爆弾スキルを散々抱え込んでいる『スキルコレクター』に、これ以上スキルを与えると言うのか?」
「そうなんだよなぁ……」
こういう場合はレアスキルか準レアスキルを贈るものと相場が決まっているのだが、そのレアスキルこそ、シュウイが持て余しているものなのである。ここでレアスキルを贈るなど、運営からの嫌がらせと受け取られても仕方が無いではないか。
「……そうなると、何かのアイテムか?」
「何のアイテムを贈ると言うんだ? 一級調薬師の弟子なんだぞ、彼は。大抵のポーションは入手できるだろうが」
「こういう場合は武器なんだが……」
「彼は【スキルコレクター】の呪いで、武器スキルの修得が困難になってる。まぁ、彼の場合は自力だけでどうにかできそうだが……」
「SROならではのアンリアルな武技は使えない。ここで武器など贈るようでは、手の込んだ嫌がらせを疑われかねん」
「スキルは余りまくってて、武器は無用の長物かぁ……」
「かと言って、防具はもうこれ以上贈れんぞ?」
既にシュウイには盗賊退治クエストの報酬として、「シルバーバックの革鎧」なるチート防具を贈ってある。これ以上の防具など、そうそう与える事はできない。
「残る定番は加護なんだが……」
「あのぉ~……加護って大抵、プレイヤーの幸運値を参照して効果を及ぼしているじゃないですかぁ。シュウイ君に与えて大丈夫なんですかぁ?」
「それなんだよなぁ……」
SROにおける加護や称号は、大なり小なりプレイヤーの幸運値を参照して、効果を調整するようになっている。現状で幸運値の化け物と化しているシュウイに加護を与えたりしたら、その効果がどこまで波及するか知れたものではない。
「シュウイ君ならこちらから与えなくってもぉ、自力で加護を得ちゃいそうな気がするんですけどぉ」
紅一点の一言夕子――蔭で〝一言多い子〟と呼ばれている彼女の「予言」に、嫌な表情を隠しもしないスタッフたち。言霊というのを知らんのか。
「……だとしてもだ、こちらから加護を与えるのは避けた方が良いだろう」
「同感」
そうなると、残る候補は――
死霊術師シリーズの新作「震える指」、明日21時に公開の予定です。宜しければご覧下さい。




