第九十五章 篠ノ目学園高校 8.放課後~要@ファミリーレストラン「ファミリア」(その2)~
茜の台詞が何か的を射ているような気はしたが、具体的な打開策が思い付かない。あるとすれば――
「……縄張りから出てきてる時に【馴致】をしかけるとか?」
「縄張りに出てきてるかどうかを、どうやって判断するんだよ?」
「目が合った途端に襲って来るかどうかじゃないのか?」
「あぁ……そぅいうのはありか……」
「だとしても蒐君、従魔と契約するためには、基本的に相手を屈服させる必要があった筈よ?」
「餌付けの可能性があるって、要ちゃん前に言ってたじゃん?」
「イビルドッグの餌付け――って、何を食わせりゃいいんだよ……」
「ズートの葉とかならありかもね」
もの言いたげな要の視線に、蒐一は端的な一語で答える。
「もう無いよ」
「……全部食わせちまったのかよ?」
「そうじゃないけど……最低でも一枚は、何かの時のために残しておけ――って、師匠から言われてるんだよね」
「余裕は無いという訳ね?」
「うん、悪いけど」
「ううん、私も図々しいとは思ってたし……何より、イビルドッグがズートの『葉』を食べるかどうかが、まず怪しいのよね……」
「あ~……見るからに肉食獣だしなぁ……」
「犬の仲間なら雑食じゃない?」
「犬だって、葉っぱを喜んでは食わんだろ?」
「だけどさぁ、SROの運営だよ?」
「それなんだよなぁ……」
一同首を捻ったが、幾ら稀少だからと言って、食べそうにないもので餌付けされるような仕込みはしないだろうという話に落ち着いた。もしそうなら、例えば魔剣や宝石とかでも餌付けできるという事にもなるではないか。プレイヤーに揚げ足取りを許すほど、ここの運営は手緩くはあるまい。
「……何か条件があるのかもしれないけど……」
「少なくとも今回は、拳で語るしか無いんじゃねぇの?」
「でもね匠君、【馴致】目的の戦いなのか討伐なのかで、心構えはかなり違ってくるわよ?」
「あ~……【馴致】が目的なら、殺しちまうと拙いんだっけか……」
「えぇ。下手に手心を加えようなんてしてたら、返り討ちになる事もあり得るのよね」
「……要ちゃん、依頼人は正確には何と言ってたのさ?」
何しろここの運営の事だから、言葉の使い方一つに罠があるかも――という蒐一の指摘受けて、要は改めて記憶を辿る。あの時は確か……
「……邪魔者を片付けろ……そう言ってたわね」
「それって、邪魔させなければいいって事? 追っ払うだけでも?」
「いえ……その後に討伐とかの話が出たんだけど……」
「少なくとも、使役しろという課題じゃなかったんだよね?」
「えぇ……そうね……」
だとすると、これは抑自分の勘繰り過ぎなのか?
「いや……これも憶測でしかないけどな、『ワイルドフラワー』の状況も関連してたんじゃねぇのか? 従魔と契約してたなぁ要と茜だけ、しかも茜の従魔はスライムだろ? 戦力として数えられるのは要のサンチェス一体だけ。けど、その一体が規格外……ってのは、運営側の想定からも外れてたんじゃねぇのか?」
「……確かに……戦力として数えられる従魔が複数いたら、制圧して契約を迫る事もできるかも……そういうオプション付きのクエストだったって事ね?」
「あぁ、可能性はあるだろ?」
だとしたら蒐一が同行すれば、依頼の文言が変わるかもしれない。……だがまぁ、現状では言っても詮無い事だ。
「要たちの近況報告はそれで終わりか?」
「そうね……言える事は大体伝えたかしら」
「あ、要ちゃん。例の園芸家さんからは? 何も言ってこなかった?」
「えぇ、特に何も聞いていないわね」
……そう。瑞葉は要に何も伝えていなかった。




