第九十五章 篠ノ目学園高校 7.放課後~要@ファミリーレストラン「ファミリア」(その1)~
「で? 俺と蒐の近況はそんなところだけど、要たちの方はどうなんだ?」
当然のごとくそう問いかけてきた匠であったが、きまり悪い事に、要たちから明かせる情報は多くない。それというのも……
「口外禁止かぁ……」
「ごめんなさいね。どうも茜ちゃんの課題になっている素材が稀少なものらしくて、産地を広めてほしくないようなのよね」
況して、目的地はイビルドッグの縄張り内である。欲に駆られた有象無象が大挙して押し寄せたりすれば、死人が出るのは間違い無い。使役職の先輩たちとしても、それは避けたいところなのだろう。
「まぁ……仕方がねぇか」
「ごめんなさいね。クエストが完了したら、場所も含めて攻略情報を教えるから」
「ごめんね」
要と茜はいたく恐縮の体であるが、どのみち自分たちがそのクエストを受注する日が来るのかどうか疑わしいし、今はそれぞれ別件で忙しいのだ。少しくらい情報が遅れても、別段不都合な事は無いだろう。
――そんな思案から要たちの謝罪を受け容れた男子二人であったが、要は要で別の思案を巡らせていた。
蒐一と匠は得心してくれたが、自分たちだけが何の情報も渡さないというのは宜しくない。依頼人たる先輩使役術師との約束もあるため、場所と素材名は明かせないが、イビルドッグというモンスターの情報くらいは教えてもいいのではないか?
約定を違えない範囲で情報を提供する事は、フェアプレーの精神にも適うではないか。……いや、別に借りを作るのが嫌だとかいうのではなく。
「イビルドッグ?」
「名前は聞いた事があるな……そいつが目当てなのか?」
「目当てっていうか、邪魔なのよ。クエスト達成のためには、排除しないといけない訳」
「「はぁ……」」
――イビルドッグ。妖気を発する黒い犬型のモンスターで、従魔術による【テイム】の対象ではないとされている。攻撃力と敏捷性に優れ、魔法による攻撃も行なうところから、恐らくは知力も高いのではないかと推測されている。狼系のモンスターながら群れは作らず、単独で行動する。また、縄張りを作る事も報告されている。
「うっかり縄張り内に入り込んだ住人が襲われた事はあるけど、基本的に縄張りに侵入しない限り、アクティブにならないモンスターみたい」
「へぇ……」
「ちょっかい出さなきゃ大丈夫なのかぁ」
「そんなノンアクティブモンスターに、態々ちょっかいをかけに行くんだな?」
男子二人は、〝性格の悪いクエストだなー〟ぐらいに考えているようだが……実は、要が相談したい事は別にある。それは……
「……〝使役職のNPCが、使役術師の卵に向かって、態々討伐課題を出した理由〟かぁ……」
「考え過ぎかもしんねぇけど、深読みしたくなる状況じゃあるな」
要の持ち出した疑問に、男子二人も考え込む。何しろSROの運営の事だ。素知らぬ顔をして罠なりヒントなりを仕込んでおくのは常道だろう。
「一応、討伐できる体勢は整えているけど……力押し以外の解決策があるのなら知りたいのよね」
「「「う~ん……」」」
こういうケースでは何かしらヒントを残しておくのが、ここの運営の遣り口だ。――それも、後で気付いて歯軋りしたくなるような形で。
「……今までの情報で引っかかる点と言えば……ノンアクティブだって事か?」
「攻撃しない限り襲わないんだっけ?」
「この場合は、縄張りに入った時点で敵意ありと見做すんだろうな」
「縄張りに入っちゃ駄目な訳か」
「入る前に挨拶するとか――なのかな?」
「「「う~ん……」」」




