第九十五章 篠ノ目学園高校 6.放課後~匠@ファミリーレストラン「ファミリア」~
ややあって気を取り直した蒐一は、徐に幼馴染みたちの方に向き直る。
「ん~……じゃあ、今度はそっちの状況を教えてよ」
自分の活動内容を根掘り葉掘り訊かれたのだ。今度はそっちの状況を訊かせてもらわないと、不公平というものだ。そう思って問いかけた蒐一であったが、
「あ~…俺たちの方は……何と言うか、ちょっとややこしそうなクエに引っかかっててな」
「ややこしそうなクエスト?」
「また秘密クエストなのかしら?」
「いや……多分そういうんじゃないと思うが……いやまぁ、或る意味で秘密クエなのか?」
匠は独り首を傾げているが、蒐一にしてもコメントのしようが無い。一体どんなクエストに巻き込まれた?
「いや……『コボルトのお守り』ってクエストなんだけどな。知ってるか?」
「知らない!」
「聞いた事が無いわね」
「僕が知ってる訳無いだろ?」
「そうか……」
軽く溜め息を吐くと、匠は件のクエストの内容を報告していく。ヴォークは確かに生えていたし、実を着けていたのも確かなようだが、どうもそれは何者かが密かに世話しているものらしい。勝手に採集した日には、その何者かと一悶着起きる可能性も捨てきれない。皆も気をつけた方が良いだろう――というところから始まって、落とし物らしきお守りを拾った件まで。
「――てか、蒐には実物を送ったろ?」
「あ、やっぱりあれがそうなんだ」
「おぅ。でな、蒐。お前、以前にコボルトに出会ったとか言ってたよな?」
「シルを貰った時の事? ……確かに、出会ったと言えばそうなんだけど……」
関所を守っていたコボルトたちを【腋臭】の悪臭で追い払ったのを、〝出会った〟と言っていいものか? 交渉らしい事は何一つ行なっていない。……帰る時には手を振ってくれたが……コボルトたちの腰が引けてたような気もするし……
「……って事は、コボルトの情報はほとんど無しか」
今回ガックリきているのは匠の方だった。それを見ている蒐一にしても、「遊び人」のスキルについての情報が手に入らなかった事でついさっき失望を感じたばかりなので、何か匠のガッカリに責任があるような気がして落ち着かない。
そんな微妙な気分を吹き払うように、
「……コボルトの事なら、冒険者ギルドの職員に訊いた方が早いかもしれないわね。少なくとも、イーファンの冒険者ギルドの職員は、コボルトの事を知ってたわよ?」
「あ……」
「……そう言えばあったね。そんな話」
確か、コボルトやホビンたちが時々、冒険者ギルドに素材とかを持ち込むという話だった。冒険者登録はしていないそうだが。
「マジかぁ……でもなぁ、あまり大っぴらに訊くのも拙そうな気がするんだよなぁ……」
「そう言えば……ヴォークの実の事は知られていないとか言ってたわね」
「あぁ。知られてないって事は、こっそり世話をしてるって事だろ? 表沙汰にしちゃ拙いような気がするんだよな」
「あ~……確かに……」
自分なら【嗅覚強化】で臭跡を追えるのではないかとも思うが、匠たちのクエストに乱入する訳にもいかないだろう。
では、「マックス」の面々にできそうな方法と言えば……
「……それとなくギルドの職員に訊くのが一番じゃないかしら」
「あとはアレだな。匠のところの魔術師さんの従魔、確かフクロウだったよな。ドローンみたいに空から捜索――とか、してくれないのか?」
「あ~……判んね。今日にでもマギルに訊いてみるわ」
蒐一と匠がそんな事を話している傍らで、要は何やら考え込んでいたが、
「……少し考えてみたんだけど……そのお守りって、落とし物だったのよね? だったら、落とし主が探しに来るんじゃないかしら。……だとしたら、下手に動かない方が良いかもしれないわね」
――と、言い出した。
「あ~……俺たちの中でもそんな意見はあったんだが……要もそう思うか?」
「ゲームとして考えてみた場合はね。冒険者ギルドの職員がコボルトの事を知ってるかどうかなんて……そんな細かな情報を、クエストの要因に持ち込むとは思えないのよね。だとしたら、現場で手に入る情報を優先した方が、間違いが無いような気がするのよ」
「あ~……だったら、その線で押してみるか」




