第九十五章 篠ノ目学園高校 2.放課後~蒐一@ファミリーレストラン「ファミリア」(その1)~
傷付いた心を癒すためと主張する匠と茜のリクエストで、蒐一たち四人はファミリーレストラン「ファミリア」を訪れていた。
銷沈していた匠と茜も、どうやら心の癒しを終えたらしく、今は落ち着いている。
そして、そんな彼らの話題がどこに収束していくかというと――
「――で? 今度は何をやらかしたんだ?」
問答無用で犯人扱いされた事にお冠の蒐一であったが、過去の実績――もしくは前科――を持ち出されると分が悪い。なので温和しく報告する事にした。……内容は少しも温和しいものではないのであるが。
今回の〝シュウイ劇場〟は、まずは当たり障りの無さそうなネタから始まった。
「……【大食い】って……そんなスキルがあったのかよ」
「ねぇねぇ蒐君、それってどんな効果なの?」
「茜ちゃん、幾ら蒐君とは言え、他人のスキル構成を詮索するのはマナー違反よ」
「む~……だって~……」
恐らくは窘めてくれたのであろう要のコメントに、どこか釈然としない――〝幾ら僕とは言え〟……って何さ――ものを感じつつも、
「あ、いいよ。……って言うか、実は僕にも能く判んないんだよね」
「ふぇ?」
「おい待て蒐、判らないってのはどういう意味だ?」
「そのままの意味だよ? 何だかさぁ……説明文が一部伏せ字になってるんだよね」
「「「伏せ字?」」」
実は、問題のスキル【大食い】の効果は、満腹度のチャージが可能というものであった。
ただし、現時点ではまだ満腹度は実装されておらす、次のアップデートで導入される予定であった。なので現時点での説明文は、〝○○○のチャージが可能〟という伏せ字表現になっている。
なので持ち主である蒐一にもその効能が判らず、βテスターの幼馴染みに訊こうとしていたのであった。
「……どうやら三文字の単語のようね」
「【大食い】で三文字かぁ……」
む~んと考え込んでいる女子二人の傍らで、
「待てよ……〝し・ぼ・う〟で脂肪か? あ、いや、〝体脂肪〟じゃないのか?」
脂肪にはエネルギーを蓄える役目があるし、エネルギーの貯蔵というならプレイヤーにも有り難い話ではないか。きっとこれに違いない――と、得意げな匠であったが……
「…………」
「…………」
「あ……いや……違うかもな……」
女子二人から氷点下の視線を向けられて、恐る恐る取り下げる羽目になった。
ちなみに、蒐一はこの間フルーツジュースを飲みながら、我関せずを決め込んでいる。
さて、〝口は災いの元〟を地でいった匠に突き刺すような一瞥をくれた後、女子二人は再び伏せ字の検討に入る。正鵠を射止めたのは今回も、直感には優れた茜であった。
「ねぇねぇ要ちゃん、これってさ、『満腹度』じゃないかなぁ?」
「「満腹度?」」
「……文章としては通じるし……ありそうな話ね」
「しかし、満腹度なんてファクターは無かった筈だぞ?」
「次回のアップデートで実装されるんじゃないかしら」
「あ……だから今は伏せ字な訳か。まだ実装されてないファクターだから」
〝満腹度〟というものが今一つ解らない蒐一であるが、どうやら重要な話らしい事は察せられた。なので、自分が感じる違和感と、その答えらしきものについて口を挟む事にする。
「なぁ匠、それって、実装前のファクターに関するスキルが、そのファクター導入前に提供されたって事だよな? これって能くある事なのか?」
蒐一の素朴な疑問を聞かされて、幼馴染みたちも考え込んだ。
「……確かにおかしな話だよな。何もこんな面倒な真似しなくたって、満腹度が実装されてから提供すれば済むんだし」
「ねぇねぇ要ちゃん、これって重要な事かな?」
「……そういう事になりそうね。こんな迂遠な真似をしてまでも、序盤から配置しておきたかったスキルという事なんでしょうね」
「でもよ要、運営側が失敗して、満腹度の実装が遅れただけ――って可能性もあるんじゃないのか?」
「その場合も同じ事でしょう? スキルを一つ眠らせるぐらいなら、それほどの手間はかからなかった筈よ? 既に多数が拾っているならまだしも、掲示板にも載っていないんだから、これはレアスキルの筈。拾った人数も多くないんじゃないかしら。それに抑、満腹度の実装についてはロードマップどおりなんじゃないかしら。そんな話が掲示板に載ってたわよ?」
「あ? そうなのか?」
そこまで深くは掲示板を読み込んでいなかったらしい匠が、戸惑うような声を上げた。この辺りは情報収集力の差であろう。だがそうすると、蒐一の疑問はそのままという事になる。
再びう~むと考え込んだ幼馴染みたちに、
「実はさぁ……パーティで【大食い】を使ってたら、称号を拾ったんだよね」




