第十二章 篠ノ目学園高校(水曜日) 2.放課後
放課後、今日は上手い具合に休みが取れたという要ちゃんを交えて、僕たちはいつもの「幕戸」――繰り返すが、正式名称を「帳と扉」という喫茶店――でお茶会をしていた。
「あ~、糞っ! 半沢の野郎面倒な課題出しやがって!」
「そう? 読書感想文なんて簡単じゃない?」
「カナちゃんだけだよ……そんな風に言えるの」
「あら? 蒐君も平気そうだけど?」
「うん。こないだ読んだ本の事でも書こうかな……って思ってて」
「……何読んだんだよ、蒐」
「プラトンの『ティマイオス』」
「……アトランティスの謎についてでも書くつもり?」
「ん~……面白そうだけど、読書感想文の枠から外れるんじゃないかな。適当に解説を読みながら再構成するよ」
「……簡単に言うよな、蒐は」
「だって、実際簡単だもん。小中学生でもできる事だよ?」
「そうそう♪ 題名書いて、粗筋書いて、解説を引用して、感想書いて、でお終いよ?」
「うぅ~……あたしたちはそれ以前に本を読まなきゃなんだよ~(泣)」
あ……茜ちゃん、もう半分涙目だ。匠は匠でテーブルに突っ伏してるし……。しょうがないな。
「以前に読んで記憶に残っている本について書けばいいじゃん。先生も新しく読めとは言わなかったし。匠は『宮本武蔵』がお気に入りだったろ?」
蒐一の提案にむくりと身体を起こす匠。
「……そんなんでいいのか?」
「いいんじゃない? 先生としては現在の文章力や読解力を見たいんだろうし。何なら、小学生の時に書いた感想文を下書きにしても文句は言われないと思うし、第一バレやしないよ」
僕の提案に、匠は「それならいけるか」とかブツブツ呟いている。茜ちゃんのケアは要ちゃんがするみたいだね。
「ほらほら、茜ちゃんも元気を出して」
「うぅ~……あたしも吉川英治くらい読んどけばよかったよ~」
池波正太郎や野村胡堂、横溝正史も良いと思うけどね……。
「茜ちゃんのお気に入りの童話があったじゃない。『ごんぎつね』とか」
「泣いちゃうから駄目~」
「じゃあ、『ないたあかおに』とか『フランダースの犬』とかでも」
「カナちゃん、どうしてそ~ゆ~のばかり選ぶの~?」
あぁ、茜ちゃん涙目だ。……要ちゃんも相変わらずだね……。
「『坊ちゃん』は?」
「憶えてない~」
「『鼻』」
「知らない~」
「『赤毛のアン』」
「読んでないってば~。も~、カナちゃんの意地悪~(泣)」
……いや、アレって全部教科書とかに出てきたような気がするんだけど……
「こりゃ、俺以上の強敵だな……。じゃあ、茜、小説、童話、映画とかで記憶に残ってるのは何だよ?」
「……『風と○の詩』?」
……手強いなぁ……




