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第九十四章 その頃の彼ら 10.瑞葉

 さて、本人の気付かぬうちに要注意人物――正確には重要監視対象――に指定された(みず)()であるが、そんな彼女の日常は――少なくとも本人の主観では――代わり映えのしないものであった。そして、それはつまり、彼女が抱える問題が何も改善されていないという事でもあったのである。



「……ど、どうしたら……」



 彼女が抱える問題とは、念願の園芸職に転職するためのレベルがあと1ポイント足りないという事であり、



「……カナちゃんは、他人(ひと)様のお役に立つようなクエストを受けろっ――て言ってたけど……」



 ここのところ住人(NPC)相手なら大分会話が成立するようになってきたので、今ならクエストや依頼を受ける事も――以前ほどには――難しくないかもしれない。ただ、ネックとなるのは〝公益性の高い〟クエストを受けるべしという点であろう。


 戦闘や回復に関わるスキルは何一つ持っていないため、討伐系の依頼は受ける事ができない。受けたとしても即行で死に戻るのは確実であり、それでは経験値にも貢献値にも上乗せはされない。単に「依頼失敗」というマイナス査定が付くだけである。

 ならば生産系の依頼はどうかと言うと、この手のゲームの定番として、生産系に出される依頼は鍛冶とか調薬に関するものが多く、農作物の納品などというものはまず見かけない。仮にあったとしても、そういう依頼はプロ向けのものが多く、納品数が三桁などというものも珍しくない。

 残るは、他のパーティに入れてもらって経験値を稼ぐという方法なのであるが……



「ふぇぇ……無理だよぉ……」



 対人恐怖症の程度は改善されたものの、未だ人見知りを克服できない(みず)()にとって、一面識も無い他人にパーティ加入の交渉を持ちかけるなど、逆立ちどころか宙返りしてもできる訳が無い。また、現在トンの町に(たむろ)している新人たちも、(みず)()のようなお荷物メンバーを抱え込めるほどの余裕は無いだろう。



「はぁ……買い物にでも行こ……」



 気分転換に買い物にでも出かけようと表に出た彼女であったが、



「あら、(みず)()ちゃん」



 ――と、親しげに声をかけられた。



「あ、どうもです。畑の具合は如何(いかが)ですか?」



 (みず)()に声をかけてきたのは、近所のご婦人方(NPC)であった。このところ対人恐怖の度合いが減ってきた事もあり、今では住人(NPC)相手であれば、問題無く会話できるようにまで症状は改善している。

 そして、そんな(みず)()が訊ね返したのは、彼女がご近所さんに提供した「肥料」の効き具合についてであった。


 ……勘の良い向きはお察しであろうが、この「肥料」、シュウイが【堆肥作り】の練習にと膨軟化と魔力浸潤を施した土を素に、(みず)()が嬉々として作成したものである。自分一人では使い切れぬ量ができてしまったので、ご近所の皆さんへのお裾分けをしたのだが……その甲斐あってご近所さん(NPC)の好感度は目出度(めでた)く上昇し、『ママ友』なる称号を獲得するに至っていた。ちなみに、この称号の事はカナには話していない。園芸とは何の関係も無さそうだし、相談の必要など無いではないか。


 ともあれ、近所のご婦人方と和気(わき)藹々(あいあい)に会話を楽しみ、ついでにお買い得品の情報などを教えてもらう(みず)()。ご両親が見たら感涙に(むせ)ぶであろう事は間違い無い。……相手が生身でない事だけが残念である。



・・・・・・・・



 さて、ご近所からの耳寄り情報を頼りに市場へやって来た(みず)()であったが、そこで数少ないプレイヤーの知人と出会う事になった。


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