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第九十四章 その頃の彼ら 9.新人たち~エンジュの場合~

 場面は再びトンの町に戻る。



「僕はともかく、エンジュさんの方はどうなんですか?」

「う、うん……あのね……」



 エンジュはエンジュで別の難問に直面していた。スキルの習熟が上手くいかないという点ではモックと同じなのであるが、少なくとも運営を巻き込んでの不具合騒ぎには至っていない。だからと言って、それはエンジュの苦労が軽減される事にはならない。


 エンジュの問題は、スキルのレベルを上げるための練習材料という点にあった。

 彼女がキャラクタークリエイトの際に取得したスキルのうち、宝石職人(ジュエラー)に関係しそうなスキルは【鍛冶(基礎)】【宝飾】【採掘】の三つだけである。

 【鍛冶(基礎)】を取得したのは、【彫金】というスキルが【鍛冶】から派生する二次スキルであるためで、まぁこれは妥当なものと言えるのだが……問題はあとの二つのスキルである。……いや、この言い方は適切ではない。この二つのスキルに問題がある訳ではないのだ。まず【宝飾】については……



「……これさえあれば宝石職人(ジュエラー)は万全だと思ってたんだけど……そう簡単にはいかないよね……」

SRO(このゲーム)、スキルの詳しい内容は、最低でも一度使ってみないと判らない仕様になってますからねぇ……」



 【宝飾】は確かに宝石職人(ジュエラー)必須のスキルではあったが、それはアクセサリーの製作に関するスキルであった。具体的に言うなら、宝石の効果的な配置を決定するとかのデザイン方面のスキルである。まぁ、スキル名に「飾」の文字が入っている辺り、或る意味で名が体を表していると言えるのだが。

 これのどこが問題なのかと言うと――原石の加工については一切フォローしていないのである。そっちは【彫刻】とか【研磨】の領分だ。

 ならばSPを支払って取得すればいいのであるが、ここでモックからの異論が呈された。曰く――〝それくらいなら態々(わざわざ)SPを支払って購入しなくても、それっぽい行動を繰り返していれば生えてくるのではないか? 貴重なSPを消費するのは勿体無いのでは?〟


 ……言われてみれば納得できる話である。


 〝成る程〟――とその案を採用したはいいが、今度はそれっぽい行動を施す対象という問題が浮上した。

 【彫刻】とか【研磨】の対象となる素材は、適度な硬さと適度な柔らかさ、それに適度な強靱さを持つものが適している。宝石の原石は問題無くその要件をクリアーしているのだが――



「肝心の原石が手に入らないのよね……」

「町の近くじゃ採れないみたいですからねぇ……」



 【採掘】は宝石の原石を採集する目的で取ったのであるが、肝心の産地がどこにあるのかの情報が、掲示板にも全く上がってこないのである。



「まぁ、宝石職人(ジュエラー)自体が第二陣で追加された職業だし、仕方ないのかもしれないけど……」

「一応、石以外の素材を対象にしても、スキルは得られるみたいですよ? 掲示板情報に拠ると」

「そうなんだけど……変な職への適性が上がったら怖いし……」



 【彫刻】と【研磨】のスキル自体は、別に宝石職人(ジュエラー)専用という訳ではない。木工職人や(かざり)職人にも必須のスキルである。

 だからこそ、エンジュが木材や骨で【彫刻】や【研磨】のスキルを取得したり練習したりすると、宝石職人(ジュエラー)への転職に差し障る可能性が無視できない。それはエンジュが何より忌避する事態である。同じ理由で、【鍛冶(基礎)】を鍛えるのも無しになる。

 ちなみに、SPで【彫刻】と【研磨】のスキルを取得しても、先述の理由でスキルアップのための練習が難しいため、事態はほとんど好転しない。



「やっぱり、細々と採掘の練習をするしか無いか……」

「あとは市場とかで【鑑定】のレベルアップですね。こっちは僕も鍛えておきたいですし」

「時々は掘り出し物もあるしねぇ……」



 トンの町に宝石職人(ジュエラー)はいない事は確認済みであるが、宝飾品そのものが無い訳ではない。そういうものは他所(よそ)から流れてくるのである。それに混じって、ごく(たま)に宝石の原石も市場に出る事もあるのだが……



「けど……硬いとか高いとか……初心者には厳しいのばかりなんだよねぇ……」

「シュウイ先輩のお蔭で、割と資金的には余裕があるんですけどね」

「うん。だからできるだけ買うようにはしてる。今は無理でも、先には加工できるようになると思うし」



 ままならぬ現状に二人揃って溜め息を()いたが、



「……とりあえず市場にでも行きましょうか?」

「そうだね。ここにこうしていても始まらないし」



 ――という訳で市場に足を向けた二人であったが……そこで最近知り合ったプレイヤーと出会う事になるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 運営さんとて甘くはないから 無価値に見える石ころ磨いても 研磨のスキル手に入らないとか? 各地の石ころを無心に磨くという 一見クレイジーな行動。。。 心折れそう。 SP使っても良くない?こだ…
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